第1回 「正解を知っている」教師・学校から「学び続ける」教師・学校へ

第1回 「正解を知っている」教師・学校から「学び続ける」教師・学校へ
【協賛企画】
広 告

 「教師も対話が必要なことは分かる。でも、対話したところで結局何も変わらないんじゃないの?」

 そんな胸の内を先生方から伺うことがあります。多忙な毎日を送る教員にとって、対話の時間を取ること自体が難しく、意義や位置付けが不明確なまま「対話させられる」ことが苦痛を生むことはおかしくありません。

 過去の正解が機能せず未来が予測困難な時代において、対話の重要性がますます高まっていくからこそ、対話の前のセットアップとして、「対話」の前提や意図について共通認識を深めることは大切なプロセスだと言えます。

 文部科学省は「令和の日本型学校教育」の中で、児童生徒が自分の良さと可能性を認識し、あらゆる他者を価値ある存在として尊重し、協働しながら豊かな人生を切り拓くために「主体的・対話的で深い学び」が重要だと改めて示しました。また、12年ぶりに改訂された「生徒指導提要」では、教員は環境の変化を前向きに受け止めて「自ら学び続ける教員」となり、学校組織は教職員同士が対話を通して学び合い、教職員集団の認識や行動を効果的に変化させていく「学習する組織」への変容が必要だと明記しています。

 ここで言う「学習」とは、教科学習のように知識や思考を高めて「顕在的な課題」を正しく迅速に解決するためのヨコ軸の学び(認知能力)ではなく、「まだ現れていない潜在的な事象」に対する抽象的な感情や感覚を深く内省し、新たな気付きを得るタテ軸の学び(非認知能力)を指しています。

 一人一人が「学習する個人」として内省し、個の内省の過程を組織全体で分かち合い、気付きと能力を共に高めていくのが「学習する組織」です。「学習する組織」には、五つの原理が必要です。「自己マスタリー」「共有ビジョン」「システム思考」「メンタルモデル」そして「ダイアログ(対話)」です。対話はとても重要ですが、五つの原理の一つに過ぎません。残り四つの要素を組み入れながら対話をすることで、教員、そして組織全体が本来の力を取り戻し、生き生きと生命力に溢れた学習者へと進化していきます。

 聞き慣れない難しい言葉が並びましたが、日々たくさんの命と向き合っている先生方は、実際に体験すると「ああ、そういうことか」とすぐに本質をつかまれます。

 内省的な対話とは、いわば「命の声」に耳を傾けることです。「教師はこうあるべき」という正しさによってかき消されてきた自分や同僚の「命の声」に光を当てることで、これまでにない意識の変化と気付きが起こります。そんな奇跡のような瞬間にこれまでたくさん立ち会ってきました。本連載では、そうした事例を幾つか紹介していきます。

【プロフィール】

渋谷聡子(しぶたに・さとこ) べネッセコーポレーションにて進研ゼミ赤ペン添削指導員の育成マネージャーを経て、エグゼクティブコーチとして独立。国学院大学大学院神道学科にて、神話や社会形成の原理による持続可能な共同体のあり方と「学習する組織」における組織開発の潮流研究にて修士号を修了。「個人と組織の可能性を引き出す」をテーマに、企業や学校、医療現場において対話の実践による組織変革ファシリテーションを行う。2014年、教育支援に特化した合同会社ファミリーコンパス設立。教員同士の対話による組織風土改革、「主体的・対話的な学び」の実践を支援している。日本女子経営大学院講師。清泉女子大学非常勤講師。青森県出身。

広 告
広 告