組織変革の鍵は「変えよう」としないことです。対話は、変わることが目的ではありませんが、内省により気付きが起こり、想定を超えた大きな変容が多々起きます。
土曜日の朝に、全国の教員や保護者がオンラインで対話をする場を開いています。所属している組織に対話的な土壌がないと「言ってもしょうがない」と諦めてしまいがちですが、組織の枠を超えることで安心して対話の経験を積むことができます。
ある時、公立中学校のA先生が葛藤について話してくださいました。
「運動会の徒競走で、中3生たちがスターターの音と共に撃たれて倒れ込むパフォーマンスをし、場を乱したことにモヤモヤしています。真剣に走るべき競技でふざけるなんて!と生徒たちを怒りました」
A先生のニーズを探究して見えてきたのは「配慮」や「尊重」、自分と違う価値観を受け入れて「成長」してほしいという願いです。徒競走を通して、真剣に挑戦することを学んでほしいという熱い想いが伝わってきました。
次に、生徒たちのニーズを探究します。自由、自己表現、イキイキさ、意味、参加…。2年間コロナで行事を我慢してきた中3生が、この運動会を自分たちなりに「意味」あるものにしたかったのではないか。自由さの自己表現だけなら運動会をボイコットもできたのに、パフォーマンスでみんなを盛り上げたのは「貢献・参加・協力」というニーズがあったのではないか。そんな話が出ると、A先生の表情がみるみる晴れやかになり、「いやー、これから卒業までどうやって締め付けようかとばかり考えていましたが、そんなニーズがあったなんて驚きです!あの子たちに悪いことしたなあ」と実にうれしそうです。
そこでA先生に「自分と違う価値観を受け入れる成長を、まずはA先生が体現して、生徒たちに今日の気付きを伝えてみてはいかがでしょうか」とリクエストすると、「やってみます!」と即答しました。わずか15分の対話で一つの出来事に対する見え方、生徒たちへの向き合い方に「視座の転換」が起きる。これが気付きの力です。A先生の学びがあるかないかが、生徒たちは卒業まで締め付けられて世界に失望するか、それとも「理解してもらえた」という信頼に変わるのか、大きな転換点だったと思います。
まさに「学習する個人」となったA先生が、こんな後日談を話してくれました。
「生徒たちは半分くらいニヤニヤしながら聞いていました。間に流れる空気が少し柔らかくなったかな。でも、生徒以上に教職員の反応が面白かったんです。この学びを学年の先生にしたところ、肯定的な受け止め、否定的な受け止め、どうしたらいいんだーと頭抱える先生、別な生徒指導案件で早速生徒の話を聞こうとする先生などがいました。職員みんながもやっとしながら流されていたであろう事象が、一度立ち止まって考える機会になったことが、私自身、一番うれしかったです!」