第6回 真実を分かち合う:葵小「対話する学校」への挑戦①

第6回 真実を分かち合う:葵小「対話する学校」への挑戦①
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 「学習する組織」の実現を長年目指してきた市村淳子校長の熱い依頼を受け、2017年度から対話の取り組みを支援している京都市立葵小学校。初回の研修から組織内で起きていたリアルな課題「改革を進めたい派」と「もう限界派」の葛藤に教員全員で向き合い、お互いの願いに触れる深い対話を経験するなど「土壌」が育ち始めていました。

 そんな2年目の春、5人の先生が新しく異動されてきました。そのうちのお一人は定年退職間近のベテランA先生。対話なんて聞いたことすらないのに学年主任になり、やりにくさがあるものの素直に出すこともできず、斜めに構えた言動で周囲の先生方とかみ合わない空気が漂っていました。

 そんな中で始まった対話。まず教員全体で話したいテーマを自由に挙げていきましたが、どんなテーマであっても対話を進めていくと、必ず組織内の重要な課題が浮き彫りになってきます。

 A先生の隣の学級の担任である新任のB先生が、先輩に後押しされて出したテーマが「学級担任によって差があってよいか、学年内で足並みをそろえるべきか」でした。最初は一般的な話でしたが、B先生の奥にまだ話せていない何かがあることを感じた先生方の共感的な寄り添いによって、B先生が声を絞り出すように話してくれました。それは、これまで誰にも言えずにいた苦しくつらい胸の内でした。

 「保護者会の前日、私は初任者研修があり、他の先生への不在対応の依頼をなんとか終えて慌てて学校を出ました。保護者会の準備が何もできないまま疲れて寝てしまい、翌朝出勤したら隣のA先生の教室には子どもたちの作品など掲示物がきれいに張られていました。私の教室とは雲泥の差です。それでなくても保護者は新任の私を不安に思っているのに、完璧なA先生と比べられてしまいます。だけど、毎日が多忙過ぎて、自分にはこれ以上どうすることもできなくて…」

 通常、若手教員から悩みを打ち明けられると、先輩教員は救いたい気持ちからアドバイスをしたり、「みんな同じだよ!そのうち慣れるよ!」と軽くしてあげようとしがちです。しかし、葵小学校の先生方は「どうするべきか」という課題解決ではなく、まずはB先生の痛みを「それは苦しかったね」と受容することが大事だと体験的に理解していて、教員全員が心からB先生の心の声に耳を傾けていました。その横でもう一人の新任C先生も涙を流し、自分にも同じ痛みがあったことを話してくれました。温かい空気が流れる中、居心地が悪くなっていたベテランのA先生が強い口調で反論をし始めました。

 対立軸の表れは、対話が進んでいる証し。ここからさらに深い対話へと進んでいきます。

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