第10回 一人一人が願いを体現し、「変化の源」となる組織へ

第10回 一人一人が願いを体現し、「変化の源」となる組織へ
【協賛企画】
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 「学習する組織になるには、どうしたらよいですか?」と聞かれることがあります。その答えは「学習する組織にしようとしないこと」です。

 「人は変わりたくないわけではないが、変えられたくはない」という言葉があります。新しいメソッドを取り入れて組織を「変えよう」とすると、「変える側と変えられる側」という境界線が生まれて分断を生み、抵抗や反発が現れます。

 変えようとしなくても、人と組織は常に変化し続けています(よい変化も悪い変化も)。しかし、組織の「こうであるべき」という前提が、望ましくない変化は「対処すべき問題」と捉え、真実を見えなくさせていきます。

 大切なのは、今この組織に何が起きているのかについて「問題」の犯人探しをやめ、正しさを傍らに置いて、「ある」のに「ない」ものとされてきたことに光を当てて命の声を聴くことです。問題の原因を他者に向けるのではなく、自分のどんな前提が現状の構造を引き起こしているかを一人一人が内省する「学び続ける教員」になっていく。そんな「学習する個人」の集まりが、「学習する組織」を育んでいきます。

 また、教員のみならず、保護者、教育委員会、文部科学省、学校というシステムに関わる全ての人たちもまた、「学習する個人」になっていく必要があります。東京都のある公立小学校での教員研修に、都教委の若手職員であるAさんが視察に来られたことがありました。「都教委」というラベルに先生方が警戒する中で始まった対話演習で挙げられたテーマは、「学習発表会をやるか、廃止するか」。いざ始まると、教員全員が「廃止にする」側に立ちました。「全員が同じ意見なら、廃止にしたらよいのでは?」と問うと、「保護者から必ず反対される」との声が…。そこから、学習発表会が児童の発表ではなく、事前準備に明け暮れる教員の発表会になっていることへの嘆きが次々と語られました。

 その様子をじっと聞いていたAさんに「何かありますか?」と聞くと、込み上げてきた涙とともに「先生たちがこんなに苦しんでいたなんて、全く想像していませんでした。私はただ、先生が生き生きと働けるよう支援をしたいとの思いだけでしたが、現場のことが何も分かっていませんでした」と自分の気付きを話してくれました。すると先生方の空気が一変し、全員がAさんという「命」に寄り添い、共感や励ましとともに「みんな願いは同じなんだな」という声が上がりました。

 子どもたちが幸せであるには、まずは教員が幸せである必要があります。教員という仕事を通してどんな願いを実現し、どんな学校を創りたいのか。対話によって願いが見えたら、誰かに満たしてもらうのではなく、自分自身が願いを体現し、生き生きと輝く「変化の源」になっていく。そんな学校を、みんなで共創造していきましょう。(おわり)

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