私はこれまで約5年間、フリースクールを通して100人を超える不登校、行き渋りの子どもたちと関わってきました。一人一人がさまざまな背景によって不登校になっています。一般的に「不登校問題」と言われることが多いので、まるで不登校であることが問題であるかのように考えている方が多いと思いますが、実際には不登校は「結果」の状態であって、その裏側にはさまざまな生きづらさ、抱えているものがあるのです。
一昔前であれば「いじめ」がその要因として挙げられることが多かったのですが、最近は空気が変わってきています。学校のルールや雰囲気に縛られること、個々の意思を尊重してもらえないことに違和感を抱き、学校から距離を取る子どもが増えているのではないかと感じます。
もちろん、「距離を取る」と言っても、本人の目の前に選択肢があって、「どっちにしようかな」とるんるん気分で選べるわけではありません。「学校には行かなければならない」という親、先生など大人たちの強い空気に気おされ、最初のうちは耐え忍びながら学校へ登校します。でも、途中から心身が追い付かなくなるのです。ある子は頭痛や腹痛に悩まされ、ある子は「誰かに常に見られている気がする」と心の不調を訴えるようになります。そうして子どもの表情が暗くなり、日常生活も送れなくなっていく経過を見て、ようやく周りの大人たちも気持ちを改め「今は学校に行かなくてもいい。まずは元気に過ごせるように」と姿勢を変えます。
でも、大人がやっと気付いた時というのは、すでに子どもは心も体もズタボロで、「人が怖い」「人を信用できない」状態にまで追い込まれていることもしばしばあります。最近は「3週間で学校復帰!お子さんが学校へ戻るお手伝いをします」といった文言の広告が見られるようになってきました。でも、私は思うのです。「学校に戻すことが本質的な問題解決になるの?」と。いじめを受けている子、自分の意見を押し殺して生活している子、特性により苦手なことを周りに努力不足と否定される子、家庭内の問題を誰にも打ち明けられず笑顔をつくって生活している子、先生の怒鳴り声に恐怖心を感じながら授業を受けている子…。一人一人の抱えている事情は多種多様です。そうして抱えているものや気持ちを理解し、その解決のために寄り添うことの方が大事なのではないでしょうか。
「学校に行く」ということを目指す中で、目に見えない大切なものを見落としているのではないでしょうか。そんなことを思いながら、私は子どもたちと関わり、「教育とは何か」に向き合い続けています。
【プロフィール】
土橋優平(どばし・ゆうへい) 1993年生まれ、青森県八戸市出身。宇都宮大学在学中、生きづらさを抱える子ども・若者のために活動をしたいと休学し、学生団体を立ち上げ活動。2年間の休学後に中退し、NPO法人キーデザインを設立。過去に自身が「起立性調節障害」の診断を受け、学校生活に生きづらさを抱えていた経験もあり、現在は不登校の親子のサポートをする。子ども向けのフリースクールやホームスクールで年間100人以上の子どもと関わり、保護者向けの無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」は全国から2,600人を超える登録者がいる。2021年に下野新聞社「とちぎ次世代の力大賞奨励賞」、栃木県経済同友会より「社会貢献活動賞」を受賞。