2022年11月、アメリカのOpenAI社がChatGPTを発表すると、私たちが普段使っている自然言語の形でコンピューターとやりとりができる対話型の生成AIとして、世界中が驚きに包まれました。そして、23年3月になるとさらにバージョンアップされた GPT-4 が発表され、この頃から世界中で生成AIブームとも呼ばれる状況になりました。
この波は、子どもたちの生活にも広がっています。みんなのコードが24年5月に発表した「2023年度『生成AI100校プロジェクト』実践報告書」によると、高校生の半数以上が家庭などで生成AIを使ったことがあることが分かりました。さらに、多くの生成AIツールの利用規約では13歳未満の子どもは使えないとなっているにもかかわらず、小学生のうち14.5%は学校外で利用したことがあると回答していました。こうしたことからも、小学校段階から利用を禁じるのではなく、子どもの生活実態に即した手だてが必要であることが分かります。
文部科学省は、23年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表しました。これに基づき、全国のパイロット校で実践研究が進んでいます。しかし、生成AIは既存の教育の仕組みや在り方を根本から問い直してくるテクノロジーです。私たちはもっと大きな視点から、生成AIと教育の関係を考えていく必要があるのではないでしょうか。
例えば、生成AIを子どもたちが当たり前に使うようになった時代において、興味のないことについて作文させる課題は適切と言えるのでしょうか。もちろん、文章を書く能力は今後も変わらず重要ですが、興味がないテーマについて書くのであれば、生成AIを使わない選択はできないでしょう。自分が書きたいと思ったことに対して集中的に取り組むのがよいのではないでしょうか。
生成AIが当たり前になる世の中において私たちが問われているのは、「自分は何をしたいのか・何が好きなのか・何を『いい』と思うのか」という確固たる価値観を鍛えていくことでしょう。私は価値観を鍛えるためには「本物(actual)に触れる」こと、「本物(actual)をつくる」ことの両方が必要だと考えています。人はモノを作るプロセスでさまざまなことを学んでいます。
本連載でこれから紹介されていく実践事例のほとんどが、創造的な活動に取り組んでいます。そこで子どもたちはどんなことを学んでいるのか、生成AIを使うことによって、子どもたちの学びがどのように深まっているのか。そうした視点でご覧いただければと思います。
(特定非営利活動法人みんなのコード 未来の学び探究部 特任研究員 宮島衣瑛)
【プロフィール】
NPO法人みんなのコード
代表理事・利根川裕太。2015年7月設立。全国でテクノロジー教育の普及活動を推進する非営利法人。「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をビジョンに掲げる。公教育におけるテクノロジー教育の拡充に向けた政策提言や学術機関と連携した実証研究を行い、未来の教育を支える取り組みを進めている。具体的な活動内容は、授業用テクノロジー教材の開発と無償提供、情報教育を担う教員向けの各種研修の企画・開催など。子どもたちが自由にテクノロジーに触れられる第三の居場所「みんなのクリエイティブハブ」の運営も行っている。
コーポレートサイト:https://code.or.jp/