読み書き困難の原因はさまざまです。支援もまた子どもによって違ってきます。今回紹介するのは、「脳のトレーニング」として開発された「カラーマスノート」(一般社団法人日本医療福祉教育コミュニケーション協会)です。
トレーニングと言っても、繰り返し文字を書く練習ではありません。脳のある経路を活性化することで、文字の形を正確に読み取れるようにするトレーニングです。開発したのは、読み書き障害の子を長年にわたり支援してきた小児科医の脇口明子先生(高知大学医学部特任教授)です。
脇口先生によると、視覚認知機能の中でも色と線を認知する腹側経路(ふくそくけいろ)を鍛えることで、文字の線と位置を正しく認知できるようになるそうです。この理論から生まれたのが「カラーマスノート」です。
「カラーマスノート」は、一つのマスが空色、黄色、ピンク、緑色の4色に分割されています。4色のマスに書かれたお手本の文字を見ながら、何も書かれていない4色のマスに文字を正確に書き写します。「文字の書き始めの位置は空色、次の線はピンクへ」というように、色と線を意識する作業の繰り返しで腹側経路が鍛えられます。
「さすがに医師は目のつけどころが違う」と感じさせるのは、腹側経路トレーニングが生まれたエピソードです。「自画像を描く際、(実物ではなく)写真を見ながらだと子どもたちは上手に描けた」という特別支援教育の先生の話を聞いて、脇口先生は即座に腹側経路を鍛える方法を思い付いたといいます。
実物は立体で三次元です。写真は色と線から成る二次元です。読み書き障害を抱えている子どもたちは、視覚認知機能に問題を抱えていることが多いと言われています。「写真を見て上手に描けた」ということを聞き、脇口先生は二次元の視覚認知機能には問題がないと気付きました。そこで、言語聴覚士の協力を得ながら4色のマスを手づくりして、通院してくる子どもたちに試したところ、とても効果があったそうです。その後、「カラーマスノート」として世に送り出すことになりました。
「カラーマスノート」は家庭でも手軽に使えます。学校と家庭で連携して使うのもよいかもしれません。