「子どもには成功体験が大切」という話をよく聞きますが、私は逆だと思っています。子どもの頃にこそ、たくさんの失敗体験が必要です。もっと正確に言うと「大人が答えを示さず、子どもが失敗を繰り返しながら、周りのサポートを受けて自分で成功にたどり着く経験」です。
理由は3つあります。1つ目は周りに与える影響が小さいからです。大人になれば、例えば会社の中で起こしてしまったミスが、数千万円の損害を出す可能性だってあります。仕事の内容によっては人の命を奪ってしまうことにつながるケースもあるでしょう。それに比べて子どもの頃に起こすミスの多くは、周りに大きな損害を与えることが少なく、周りが許すこと、サポートすることで解決できます。例えば受験の失敗なども、周りへの影響はほとんどなく、本人の人生の問題です。小さい頃にする失敗というのは、自己完結できるものが多いと言えます。
2つ目は、子どもの頃は周りのサポートを受けやすいからです。親を中心にサポートする役目の大人が身近に多く存在するため、失敗したときに多くの手を借りながら解決まで進むことができます。また、「子ども」という立ち位置からも、周りに「支えよう!」という気持ちが自然と働きやすい側面もあります。例えば、40歳の大人と10歳の子どもで想像すると、その差は歴然だと思います。大人になると「自分の力でなんとかしなさい」と言われることが多い世の中です。ある意味で、子どもの特権とも言えます。子どものうちに、その権利はどんどん使っていった方がいいと私は思います。
3つ目は、失敗体験こそがその子の「生きる力」を育むからです。私は「失敗体験」そのものに価値があるのではなく、失敗したときに自分で考え、改善のために努力すること、周りのサポートを受けることに価値があると思っています。結果としてそれが成功したとしてもいいですし、うまくいかずに他の道を選んだとしてもいいのです。自分で考え努力すること、そしてその過程で周りのサポートを受けることこそが何より大切なのです。先ほど「生きる力」という言葉を書いたように、まさに何にも通ずる生き方なのです。生きていれば初めてのことや不安を感じることにたくさん出合いますし、失敗してくじけそうになることだって数えきれないほど経験します。そんな時に「自分で努力すること」「周りの力を借りること」の2つができるだけでも、十分に生きていくことができるのではないでしょうか。
子どものうちに多くの失敗体験をし、こうしたシンプルかつ重要な力を身に付けることが大切だと私は考えています。