第1回 挫折からGlobal Teacher Prize2023に至るまで

第1回 挫折からGlobal Teacher Prize2023に至るまで
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 AF0281――これはパリのユネスコ本部から送られてきた、電子航空券に記されていたフライトナンバーです。「Global Teacher Prize2023」のセレモニーに招待されるまでに、教員生活の約20年において多くの紆余(うよ)曲折がありました。授業崩壊を経験し、授業レベルの低さ故生徒から人格を否定されたこともあります。

 私は決してエリートではありません。特筆すべき経歴もなく、大学では英語教育ではなく英米文学を専攻していました。卒業論文はヘミングウェイで書いたほどです。教員としての適性、才能もありません。私より適性が高く、才能に恵まれている教員は身近なところでも無数に存在します。

 教員として採用され、初任者として初めての研修に参加した時のことは忘れられません。鳥取県内の全校種の初任者が一堂に会して第1回目の初任者研修が開催され、100人以上の新任教員がいたと思います。会場にいる初任者の教員然とした雰囲気を感じるにつれ、自分はこの中で最低ランクの教員であるといやが応でも自覚せざるを得ませんでした。

 高校の進路指導的に私は失敗作かもしれませんし、「異端」「アウトロー」と言われる方がグローバル・ティーチャーと呼ばれるよりしっくりくるほどです。そんな私が、なぜ「Global Teacher Prize2023」でトップファイナリスト50に選出されることになったのか。自分でも不思議だと思いますし、幸運もあるでしょうが、特に評価された「ディープ・アクティブイングリッシュ」についてその理論と実践内容をご紹介できればと考えています。

 「Global Teacher Prize」になぜ応募したのか。これは私がよく聞かれる質問です。私は自分のモチベーションを維持するために、あえて授業実践をアウトプットする機会を設定するようにしています。公開授業はもちろん、研修会で発表すること、何かの賞に応募することもその一環であり、私の中では全て同一の地平で捉えています。

 よって、「Global Teacher Prize」に応募することは、何ら特別なことではありませんでした。人目にさらされなければ、教員としての成長は鈍化します。自分とは違う視点、視野、視座を持つ他者の目で見てもらうことこそ、成長につながるのではないでしょうか。

 私の場合、2020年度の第69回読売教育賞「外国語・異文化理解」部門において、最優秀賞を受賞したことが全国的に認められる第一歩となりました。ディープ・アクティブイングリッシュは、基本的にこの受賞から始まっています。

 

【プロフィール】

松田裕史(まつだ・ゆうじ) 1977年生まれ。鳥取県倉吉市出身。2006年に鳥取県の県立高校教諭として採用されて以来、県立高校に勤務。現在は鳥取県立鳥取西高校に勤務。20年、第69回読売教育賞の「外国語・異文化理解」部門において最優秀賞受賞。23年、バーキー財団が主催する「Global Teacher Prize2023」においてファイナリスト50に選出される。ファイナリスト選出は日本の教育者としては7人目。スローラーナー支援のための実践的指導法と教材開発を京都外国語大学の安木真一教授と、ライティング指導研究を立命館大学の山下美朋教授と行っている。鳥取県エキスパート教員も務めている。

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