松下(2015)は「深い学習」と「深い理解」の2つが特に重要であると捉え、この2つをさらに体系化する手だてとしてマントルやエントウィスルを引用し、学びの深さを生み出すアプローチを紹介しています。その中には「概念を既有の知識や経験に関連付ける」「共通するパターンや根底にある原理を探す」「証拠をチェックし、結論と関係付ける」「論理と議論を、周到かつ批判的に吟味する」「必要なら暗記学習を用いる」という5つのポイントがあります。
深い学びは授業者の思い付きだけでは継続して実現できないでしょう。そこで私は、深さの系譜や5つのポイントを基軸とした言語活動を2019年度から構想・実践することにしました。
また、私がディープ・アクティブラーニングを英語の指導に落とし込んだものを「Deep Active English」と名付けたのが23年です。英語を通していかに、生徒に変容、変化をもたらすのか。その視点から言えば、「Deep Active English」は新しいものではなく、教育の不易の部分に重なると考えています。佐藤学氏の「学びの共同体」にもつながります。
ディープ・アクティブラーニング以外にも、石井英真氏による深い学びや授業づくりの考え方、ICEモデル、田村学氏による「深い学び」、亘理陽一氏のTEACHERモデル、TOK(知の理論)、Bloom’s Taxonomy、CoREF、フィンランドメソッドなど、深い学びをより深化させ得る教授法は数多くあり、それらの理論的知見も日々の授業実践に落とし込んでいます。
第2言語習得理論ももちろん大切です。しかし、それだけを授業構成・実践の柱としたとしても現実の授業はうまくいかないことが往々にしてあります。
英語教育の枠内だけで考えることの限界を長年感じてきた私にとって、それを打ち破るために教育学、授業学に遡及(そきゅう)することは必然でした。また、英語は日本語話者にとってESL(English as a Second Language)ではなく、EFL(English as a Foreign Language)です。ESLの理論や実践をそのまま日本の英語学習者に当てはめても、齟齬(そご)が生じることがあります。日々の実践の底にある教育理念は、生成AIや自動翻訳の進化が目覚ましい今こそ、錬成されなければなりません。
Z世代の若者を相手にするには、エンゲージメントの視点も欠かせません。学習指導要領に加え、教科の枠を超えて教育学、教授学、授業学の知見を援用することで、英語教育における「教えること・学ぶこと」をより豊かにできるのではないでしょうか。