『Departure English Expression Ⅱ』(大修館書店)のLesson 15(The Future of Technology)は科学技術がテーマであり、ゴールとなるアウトプット活動のトピックを「自動運転車」(self-driving car)としました。そして、レッスンの始まりに「What are the good points and bad points of self-driving cars?」というテーマで、生徒はペアでのやりとり(インタビュー活動)を行います。その後、同じテーマで10分間のライティングを行います。この段階では生徒に知りたい欲求、表現したい欲求を生み出すために、事前にself-driving carの資料を与えたり、ペアでのやりとりやライティングへのフィードバックを過度に与えたりしません。
教科書の言語材料をインプットした後、self-driving carに関連した英文記事を2つ(A、B)用意し、クラス座席の前半の生徒がA、後半の生徒がBを読み、読解後にA側とB側の生徒が互いに内容を確認するためにインタビュー活動を行います。インタビュー後に自分の席に戻り、取得した情報を隣の席のペアパートナーにレポートさせます。これらの活動はインフォメーションギャップを生かしたインプットとアウトプットの往還を意図しています。インタビュー、レポーティングの後はそれを生かし、創造性に比重を置いた3人組のロールプレーを行います。次のような状況設定を生徒に提示し、1分間の思考時間を取った後に活動を開始します。
「Aはシリコンバレーにある自動車会社の日本人開発者。Bは米国人開発部長。Cは米国人社長。AとBの言い分を聞いた後、self-driving carの開発を始めるべきかどうかをCは理由とともに表明しなさい」
これはインフォメーション/オピニオンギャップを生かしたインプットとアウトプットの往還によって自分の意見を客観視し、他者の意見を知る活動となり、次のライティングにつながる活動にもなり得ます。
授業のゴールとして設定したライティングのトピックは「What are possible compromises that might allow people to fully benefit from the new technology of self-driving cars?」です。self-driving carが良い(肯定)のか悪い(否定)のかという議論を超えて、妥協案を含めた新提案をするための発問です。
実はこの発問は国際教養大学の入試問題(2017)を利用しています。難関大を含め大学進学を目指す生徒たちに対して、日々の授業でのコミュニケーション活動が入試にもつながり得ることを感じさせる意図もあるのです。学習指導要領の「論理・表現」においても、ディスカッションやディベートをすることが期待されています。
私が教育現場で大切だと考えるのは、ディベートなどの英語の言語活動において相手を論破することでなく、自分と相手の意見や立場を理解しつつ、新しい何かを生み出すことです。石川晋氏は『「対話」がクラスにあふれる!国語授業・言語活動アイデア42』において、「A」でも「B」でもない、新しい「C」を生むための「対話」を提案されています。対立ではなく、エンパシーを伴った対話こそ、英語の授業でも求められるべきではないでしょうか。