第6回 「深い学び」について 実践編③

第6回 「深い学び」について 実践編③
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 「論理・表現」と「英語コミュニケーション」(旧課程では「英語表現」と「コミュニケーション英語」)を関連付ける授業の試みは、数多く行われています。例えば、「論理・表現」で学習した文法アイテムを「英語コミュニケーション」で使用する場面を用意することはよくあります。こうした実践に加え、両科目の単元テーマが同じ場合は言語活動を一本化することで、それぞれの科目で経験したインプットを統合された形で活用できるように単元構想を練ることもできます。

 例えば、「CROWN English Communication Ⅱ」(三省堂)のLesson 1「Around the World on a Bike」は、劇作家の平田オリザさんが高校時代に体験した自転車による世界旅行がテーマになっています。一方、「Departure English Expression Ⅱ」(大修館書店)のLesson 9「World Travel」も旅行がテーマになっており、基本例文や演習問題も旅行に即した言語材料で構成されています。そこで、「英語表現Ⅱ」でLesson 9を扱った後、もう一度「コミュニケーション英語Ⅱ」のLesson 1の本文を言語活動のための言語リソースとして活用するのです。

 また、レッスンを扱う前と後の生徒の思考・判断の変容を見るために、「Do you encourage your friend to go on a world trip or persuade him/her not to do so?」という発問を投げ掛け、「英語表現Ⅱ」の授業始まりに10分間のライティングをさせます。実際に行ったときの生徒のライティングは量的に乏しく、内容的にも「コミュニケーション英語Ⅱ」で学習した内容が盛り込まれている英文はありませんでした。

 Lesson 9の学習の次に行うのは「Do you encourage your friend to go on a world trip or persuade him/her not to do so?」という同じ問いを使ったミニディベートです。ここで「コミュニケーション英語Ⅱ」のLesson 1の本文をディベート用のワークシートに載せ、自分の意見を拡充する言語リソースとします。また、ライティングの前にディベートを行う意図は、自分とは違う多様な意見に触れることで自分の意見をより説得力のある英文にし、物事を多角的に見る目を養うためです。

 ディベート後のライティングでは、なぜ旅をするべきなのか、その理由がディスコースマーカーを効果的に使って論理立てて述べられているものが数多くありました。このライティングを通じ、生徒自身の旅に対する概念も更新されたはずです。ディベートのためのディベートではなく、ディベートを通して自分の思考や考察を深め、他の生徒の意見を参考にすることで深い学びに到達するのではないでしょうか。

 1コマの授業のみで生徒の変容を促し、それを見取ることは難しいですが、複数の授業から成る単元を通せばそうしたことも可能です。その際、生徒の持つ価値観、世界観に揺さぶりをかけ、それが授業を通して深くなったり柔軟性を増すような発問が鍵となります。特に、この単元では友達にどう勧めたり、やめるよう説得したりするかという過程を通して、生徒自身の「旅」に対する思考変容を狙いました。

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