「高等学校学習指導要領(平成30(2018)年告示)」では、CEFRに基づいて「話すこと」が「やり取り」と「発表」に分けられています。2018年に改訂されたCEFRでは、「書くこと」がWritten ProductionとWritten Interactionに分かれており、Online Interactionも「書くこと」に含むとすれば、「書くこと」は3領域にまたがることになります。
現行学習指導要領はおよそ10年後に再び改訂されますが、それを待たずしてWritten InteractionやOnline Interactionを取り入れてみてはどうでしょうか。特に、Written Interactionにおいて生徒が構想を練ったり、文章構成を考えたりする時間を与えることで、即興性ではなく「深さ」を狙いとする活動を展開することができます。
「コミュニケーション英語Ⅲ」の『CROWN English CommunicationⅢ』(三省堂)のLesson5「The Biggest Event in Human History … Or the Last?」)では、AIがトピックとして扱われています。このレッスンの最後に私が設定した発問は、「AIが過去の有名な芸術家の作品を深層学習し、新たに作品を生み出すことの是非」を問うというものです。教科書本文の理解が終わった後、追加のインプット材料としてAIが美空ひばりの新曲を作成したことが書かれた記事(Article B)と、同じくAIが「ぱいどん」という手塚治虫の新作を作成した記事(Article C)を読みます。
教科書では、画家・レンブラントの新作がAIによって生み出されたことが紹介されていますが(Article A)、題材がより身近なものと感じられるようにArticle BとCも取り入れました。Written Interactionの導入から振り返りまでの授業構成は、次のようにしました。
1.教員による目的・場面・状況とArticle A、B、Cのオーラルイントロダクション、Written Interactionの説明
2.発問に対するブレインストーミング(個人→ペア→クラスでシェア)
3.Article A、B、Cとオランダの高校生からのメッセージ(授業者が作成)を読み、Reply①を記入。
4.後日、Reply①を書いた生徒と違う生徒がReply①を読み、Reply②を記入。振り返りも記入。
レンブラントの出身国であるオランダの高校生は、AIによる作品複製に賛成の立場を取っています。Reply①は、それに対して全面的あるいは部分的な反論を書く設定です。Reply②はさまざまな意見を読んだ上で、最終的に自分の意見をまとめる意図を狙いとしています。振り返りとして「1 自分の主張に対して理由や例を挙げることができましたか?」「2 ArticleやReply①を読むことで、自分の考えが修正されたり、深まったりしましたか?」という問いを設け、「できなかった」「あまりできなかった」「ややできた」「できた」の4段階で自己評価も記入させました。
「1」に関しては、この実践を行った全109人中、「ややできた・できた」の割合が90%、「2」に関しては「ややできた・できた」の割合が94%でした。生徒の実感としても、授業を通して思考が深まった様子がうかがえます。