教員のこころのためにできることを考えるには、その労働の特徴を知る必要があります。教員の労働は「感情労働」に分類されます。肉体的活動が中心の「肉体労働」、知的活動が中心の「頭脳労働」がある一方で、感情労働では情緒的な活動が多く求められます。人にサービスを提供する感情労働では感情を抑える、高揚させる、鈍らせるなど、情緒的な機能を意識的にも無意識的にも調整することが求められます。
肉体労働者が働き過ぎれば身体が疲れます。頭脳労働者が働き過ぎれば頭が疲れます。感情労働者が働き過ぎればこころが疲れます。こころが疲れると情緒的な豊かさが失われやすくなったり、逆に情緒的な変化の閾値が低下しやすくなったりします。
情緒的な豊かさが失われるとどうなるでしょうか。人と接する際に感情表現の豊かさが失われれば、本人にそのつもりはなくても、冷たくそっけない態度や相手に興味や関心を抱いていないかのような態度が生まれやすくなります。情緒的な変化の閾値が低下すると、怒りやいら立ちを抑えられなくなったり、極端な情緒の変化が生まれやすくなったりします。結果的に、感情労働につきものの対人場面において望ましくない態度が生まれやすくなり、労働の質が低下して労働を通して得たい充実感が失われやすくなるばかりか、業務上のミスや事故も生じやすくなります。こうした状態は「燃え尽き」や「バーンアウト」などと呼ばれることがあります。
際限がなくなりやすく、達成感を得るのに時間を要し、業務を終えてもこころの切り替えがしにくいというのも感情労働の特徴です。こうした特徴も感情労働に従事する人のこころが疲れやすくなる理由と言えるでしょう。
さらに教員の場合には、情緒を調整する対人関係が一つではなく、児童生徒や保護者、同僚、上司、地域住民など複数に及びます。複数の対人関係で困難さが生じると、情緒的な資源が消耗されやすくなり、疲れやすくなります。その一方で、一つの対人関係に困難さがあっても、他に良好な関係性があると支えにもなります。
教員の労働は感情労働であり、その特徴が良くも悪くも強くなりやすい傾向があると言えます。こうした特徴を考えれば、職場における同僚、上司との関係性が良好に保たれやすくなるよう意図した職場づくりやラインケアが、教員のこころを守る力になるのもうなずけるのではないでしょうか。