2023年の1月、1年生を担当していた時、木々のコミュニケーションを題材とする単元の授業を実施しました。そして、「森の樹木の相補関係が気候変動、気候危機を解決するのに重要な役割を果たすかどうか」という主発問を単元を貫く問いとしました。
教科書の英文素材だけでは豊かなアウトプット活動を展開することが難しいため、主発問を考えるのに資する英文素材として大学入試の英文、TEDなどのオーセンティックな素材を適宜生徒に紹介します。大学入試において木々の生態が頻出のテーマというわけではありませんが、樹木のコミュニケーション/ネットワークは今後、エコロジー、ビオトープ、進化論の観点からもより注目を集めるトピックだと言えます。
教科書本文で紹介されている「Suzanne Simard」は、樹木の共生を気候変動にまでつなげて考えており、SDGsにも関連しています。また、鳥取には大山、智頭、氷ノ山など豊かな森林エリアがあるのでこのトピックを扱うのに最適な地域であり、単元の内容における自己関連性のレベルを高めることができます。
例えば、大山のブナ林、智頭の慶長杉、森林セラピーは、容易にレッスンの内容に関連させることができます。米子市のtenrai株式会社が推進しているプラネタリーヘルス、ネイチャーポジティブ(自然生態系の損失を食い止め、回復させていこうという考え方)も本単元との親和性が高く、公開授業の前日には地元紙がタイミング良く、プラネタリーヘルスやネイチャーポジティブを社説で扱っていました。
加えて、鳥取西高校の校内にはさまざまな種類の樹木が生育しており、久松山下に校舎が位置することから、指導者の工夫次第で樹木のコミュニケーションを身近なトピックにすることができます。公開授業の2カ月前、さまざまな木の写真を撮りながら久松山に登ったのもいい思い出です。その写真は実際に授業で何度も使用しました。自然科学基礎(生物)の授業では樹木の生態を扱っており、教科横断型の授業も展開できます。
実際の授業では、主発問をより生徒に身近なものとするために、次のようにしました。
「ALTの先生は、『森の木々は互いに助け合うことはなく、孤立している。木がコミュニケーションを取るという考えは間違っている。木々は互いにコミュニケーションを取ることはできない。その代わり、日光、水、栄養分といった生存に不可欠な資源を奪い合う。進化の歴史を知らないのか?一部の動植物は環境に適応できなかった。競争が最も重要なのだ。また、森林は気候変動とは何の関係もない。金儲けのためなら、いくらでも木を切ることができる』と言っています。ALTの先生に反論しなさい」
問いを生み出すための技術は幾つかありますが、その中の一つに、筆者の主張を否定したり、疑いを投げ掛けたりする方法があります。今回はそれを使っています。どのような問いを生徒に投げ掛けるのか、これは深い学びにとって極めて大切なポイントです。