第5回 精神疾患に対して生まれやすい誤解

第5回 精神疾患に対して生まれやすい誤解
【協賛企画】
広 告

 教員のこころのケアに携わっていると、精神疾患に対して生まれやすい誤解に気付くことがあります。教員のメンタルヘルスは、職業性ストレスや教員不足の文脈で語られがちです。報道などを通してこうした課題に触れていると、「教員のこころの不調=職業性ストレスによるもの」という先入観を持ちやすくなります。

 しかし、精神疾患の診断において最初に考えるべきなのは、身体の病気やアルコール、薬によって生じるこころの変化です。「うつ状態=うつ病や適応障害」ではないのです。実際、教員のケアの現場で、脳腫瘍、甲状腺機能障害、自己免疫疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が隠れていたことに気付くことがあります。処方されている薬が影響していることもありますし、秘匿していた大量飲酒が影響していることもあります。

 こうした身体疾患や物質の影響を見落とさないのが精神科医の役目ですが、精神科診療は短時間診療になりがちで、見落とされてしまうこともあります。そうなってしまうと効果を期待できない薬物療法が行われ、潜在している身体疾患や物質の影響は持続し、状況は悪化してしまいます。職場でこころの不調に気付いたら精神科医療機関を受診する前に、私が教育委員会の保健師などに相談することを勧めるのはこうした現状があるためです。保健師がいなければ、自治体単位で雇用を積極的に検討すべきでしょう。

 うつ病であれば薬物療法が不可欠というのもよくある誤解です。職業や生活に大きな支障が生じない程度の軽症であれば、抗うつ薬の効果は偽薬と同等です。「うつ病と診断されていても薬を服用していないから心配だ」という相談を受けることがありますが、薬物療法の必要性は重症度によります。

 アルコール、薬物、ギャンブルなどの嗜癖性のある物質使用や行動が生じた人に対し、「こころが弱い」「根性がない」などという意見を耳にすることがあります。しかし、こうした現象が生じる理由は「根性がないから」ではありません。不安、寂しさなどといった不快な感情や不眠を孤独に一人で解決しようとした際に、たまたま出合った嗜癖性のある物質や行動によって不快な感情が緩和され、その依存性の影響を受けて繰り返してしまうというのがこうした嗜癖の原因です。「根性がない」などと蔑視せず、こころの苦痛に対して孤独に対処しようと頑張っているのだと認識し、思いを想像して尋ねる姿勢が求められます。

広 告
広 告