働く人のこころのケアはセルフケア、ラインケア、事業場内の専門職によるケア、事業場外の専門職によるケアの4つに分類されます。学校現場にいると、自分を大切にすることは「甘え」や「わがまま」と認識しがちな戦前の文化を引きずっているのか、セルフケアがおろそかにされがちだと感じます。セルフケアは教員のこころのケアにも欠かせません。
セルフケアの基本は睡眠です。睡眠を妨げる要因を減らし、促す要因を増やすことが大切です。カフェインやニコチンの夕方以降の使用は控え、睡眠効率を落とすアルコールは控えるか一定程度(ビールなら500ミリリットル、日本酒なら1合、焼酎なら110ミリリットル、ワインなら180ミリリットル、ウイスキーなら60ミリリットル)以下に抑える必要があります。睡眠に必要なメラトニンの分泌を減らす光を発するスマートフォン、タブレット端末の寝る前の使用は控えた方がよいでしょう。
また、体温が低下するタイミングは睡眠を促します。人は入浴すると深部体温が上昇し、1~2時間で低下するので、寝る1~2時間前に入浴するとよいでしょう。昼間に運動をしたり、朝に日光を十分に浴びたりすることも睡眠を促進します。
一方で、週末の寝だめに睡眠不足を取り戻す力はありません。平日6時に起床していた人が週末12時に起床すると、毎週末トルコへ出張するのと同程度の時差ボケを招き、週明けの疲労感を強めます。月曜日の気が重いのは仕事ばかりが理由ではないのです。平日と休日の起床時刻の差は1時間以内に収めた方がよいでしょう。
また、良い睡眠のためには寝る前のリラクゼーションも大切です。時間外労働はこれを妨げます。時間外労働を減らした方がよい理由はここにもあります。
私生活を楽しむこと、リラクゼーションは大切なセルフケアです。ワーク・ライフバランス研究では、私生活の良好な状態は業務に良好な影響を与えることが指摘されています。人生を楽しむことは大切なセルフケアです。休暇を取ることに罪悪感を覚える必要はなく、むしろ良い仕事をするために大切なことなのです。時間外労働が増えれば、私生活を楽しむ時間は減ります。ここにも労働時間適正化の理由があります。
困ったときの効果的なセルフケアは、身近で信頼できる人に困り事などを打ち明けることです。それで解決するわけではありませんが、共感が形成されることはこころの苦痛を和らげます。ラインケアが生まれやすい職場づくりは、セルフケアを生み出しやすくするのです。