第3回 安心して働ける職場環境づくりを

第3回 安心して働ける職場環境づくりを
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 教員採用試験の倍率が低下してはいますが、一方で新卒受験者が減っていないことも指摘されています。既卒受験者を増やすことは必要ですが、新卒受験者が著しく減少してきた場合は、それこそ避けようのない人材確保の危機と言えるでしょう。

 新卒受験者の中には業界に関する情報をSNSによって得ている場合もありますが、本学の学生を見ていると、学部学生は先輩から、学卒の院生は先に社会人になった友人からの口コミによって現場の様子を垣間見て、そのリアルを判断しているように見受けられます。そう考えると、若手教師のキャリアを学校組織として守り、育てるという視点も、新卒受験者を確保するためには大事な視点ではないでしょうか。

 しかし、私の周辺では新採用教員への不適切な指導の話もよく聞かれます。ある日、一人の初任者から「お話したいことがあります」と連絡が来ました。会うなり彼女は申し訳なさと恥ずかしさの入り交じった表情で「先生を辞めました…」と言いました。自信のないところがある一方、努力家の彼女は採用試験の数カ月前から、校長経験のある大学教員や現職院生を捕まえては、面接の練習を何度も繰り返していました。うまく答えられない質問があるたびに私の研究室を訪れ、「面接の練習で、どう答えればいいか分かりませんでした。先生なら何て答えますか?」と質問し、録音された回答を全部文字に起こして頭にたたき込み、自分の言葉になるまで言い直していました。そうして合格をつかみ取り、採用されてから2カ月の勤務の後、1カ月の病休を取り、1学期末をもって憧れだった教職を去りました。

 子どもの指導に関してうまくいかないことはたくさんあったものの、子どもたちのできていないことも含めて全部愛しかったと彼女は言います。そんな彼女を最も苦しめたのは、初任者指導教員による授業の途中介入でした。最初のうちは、「初任とはそういうものか」と受け入れようとしましたが、度重なるうちに心身のバランスを崩し始めました。次第に夜眠れなくなり、やがて自宅に帰ると一晩中涙が止まらず、部屋中の物を投げ付けたりひっくり返したりするようになりました。

 そして、そんな彼女の心を打ち砕く出来事が起こります。最初の授業参観日、授業が中盤にさしかかったところで「ああ、ちょっと待って!」と初任者指導教員がストップをかけたというのです。「ああ、保護者の前でもやるんだ」と、そのとき彼女の中で何かがプツンと切れたと言います。

 こうして一人の新人教師の短過ぎる教職は終わりました。これは彼女の側から見た話ですから、全てが客観的な事実とは限りませんが、心理的事実ではあります。

 皆さんの周辺でも同様の事例を聞くことはないでしょうか。窓口を広げるよりも、安心して働ける職場環境づくりがより重要ではないか――今いる職員を大事にできない職場に、人材が集まるとは思えないのです。

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