人が人をケアするとき、ケアする人には望ましい態度を備えておくことが求められます。それは相手のこころを傷つけず、温かみのある開かれた態度です。
しかし、態度を望ましくない方向へと変えるものがあります。それは人や社会の中に潜む精神疾患のある人への負の決め付け、ラベリングです。こうした障害や病気を理由に個人や集団に対して生じる負の決め付けやラベリングを「スティグマ」と呼びます。
残念ながら精神疾患へのスティグマは、あらゆる人と社会に存在します。人々は「精神疾患のある人は何をするか分からない」「精神疾患が悪くなると周囲に迷惑を掛ける」などと、根拠のない先入観を抱きがちです。精神疾患のある人に不利益が生じやすくなる社会制度も、構造に落とし込まれた精神疾患へのスティグマと言えます。また、精神疾患へのスティグマは本人の中にもあります。
ケアする人の中にある精神疾患へのスティグマは、ケアする人の態度や言葉に表れます。学校の管理職と話していると「根性がない」「教員に向いていない」「病気というより適性の問題」などといった先入観を感じることがあります。こうした先入観は、管理職の態度や言葉の端々ににじみ出ることになります。
こうしてにじみ出た管理職の態度や言葉は、苦しみを抱える教員のこころに申し訳なさや恐れを植え付けます。そうした申し訳なさや恐れは、自殺念慮を生み出す素地になることもあります。精神疾患へのスティグマは精神疾患のある人の生命にも関わってくるのです。
とはいえ、精神疾患へのスティグマが自分の中にあるからといって恥じることはありません。精神疾患へのスティグマは、私も含めて精神医療従事者の中にもあります。幼い頃から親兄弟を含む大人たちの振る舞いや発言、学校教育、映画や小説などの文化を通じ、知らぬまに育まれてしまうのです。
スティグマを弱める効果的で確実な方法は明らかになっていません。まずは自分の中に精神疾患へのスティグマがあることを自覚できるとよいでしょう。そして、さまざまな精神疾患のある当事者の声に書籍や映画などを通して触れ、できることならボランティア活動や講演会を通して彼らと触れ合う機会を持てるとよいでしょう。その体験は自己にある認識を変え、精神疾患のある人が回復しやすい職場、社会をつくる力になるはずです。