本連載の第3回でお伝えしたような、せっかく苦労して採用されても何らかの事情で職を辞してしまう教員がいます。教員を辞めた理由についてはニュースバリューがあり、メディアで報じられたり、SNSで拡散されたりします。一方で、どんなにつらい状況に置かれても教職にとどまる教員がいますが、とどまることができた理由についてはあまり話題にされていないのではないでしょうか。
ゼミの所属学生が、小学校の若手教師が困難を乗り越えるプロセスについて、教職1~5年目の男女6人の若手にインタビュー調査を行いました。今回は、その結果をもとに、教職の継続を促す要因を探ってみたいと思います。
学生たちを見ていると、教職に就くまでに3つくらいの葛藤があります。最初の葛藤は、教員採用試験を受けるかどうか。次の葛藤は、教員採用試験に受かるかどうか、落ちたらどうするかです。
そして、合格したからといって葛藤が終わるわけではありません。3つ目の葛藤は、教員としてやっていけるかどうかです。就職が近づくにつれ、「見通しが持てない」「とにかく心配」といった漠然とした不安に包まれるとのことです。勤務が始まると、「子どもとの関わり方」「保護者対応」「授業づくり」「業務量の多さ」といった職務における困難さに加え、学年主任や同学年の教員など身近な同僚との関係性の難しさを経験します。やがて、たった一人で30人近くの子どもやその背後にいる保護者に対応しきれないと思い始め、理想の教師像やクラス像とのギャップを感じ、悩み始めるようです。
そして、そうした日々の中で、疲れや心身の限界を感じます。ある教員は「もう、ひたすら辞めたい。月曜日が嫌。学校行きたくないみたいな、不登校みたいな。日曜日の夜は理由もなく涙が止まらなかった」と語り、自分がうつではないかと疑ったそうです。
そんな若手教師たちが困難を乗り越える上で支えとなったものとして、「話しやすい同僚」や「職員室の雰囲気」、そして「周囲(友人、職場外)のサポート」などの環境要因のほか、負けず嫌いなどの「個人特性」や子どもと関わることができる「やりがい」、「理想の教師像・クラス像への強い思い」などを挙げていました。
前回述べたように、ここでもやりがいとして「子どもとの関わり」があります。また、職員室は教員のモチベーションを守る重要な要因として挙げられています。教職の魅力を考えるとき、やりがいの重要な部分を構成する「子どもとの関わり」の時間を確保すること、ストレスフルな状況を乗り越えるため話しやすく、頼りやすい職員の関係性を構築することは、不可欠なのではないでしょうか。
しかし、職員室の雰囲気づくりや職員同士の人間関係構築については、あまり積極的な取り組みがなされず、偶然性に依存しているように思います。