第10回 ラインケアの前に備えたい技術 傾聴

第10回 ラインケアの前に備えたい技術 傾聴
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 ケアする人が備えたい技術の一つに「傾聴」があります。最近ではありふれた言葉になりましたが、誤解も多いと感じることがあります。傾聴を成功させるためには幾つかの工夫が求められます。それは「適切な相づちや繰り返し」と「相手の発言の言い直しや言い換え」、そして「要約、まとめ」です。

 傾聴を妨げる要素として先を急ぐ態度、説得・評価・解決策の提示があります。先を急ぐ態度が傾聴を妨げることは容易に想像できるでしょう。人は想いを誰かに打ち明けるのが苦手です。恥の意識は打ち明けることを邪魔します。ケアする人が先を急ぐ態度を取ると、こころに苦しみのある人は想いを打ち明けにくくなりますし、「忙しいのに迷惑を掛けている」と自責の念を抱きやすくなります。また、説得や評価は否定されているという認識をもたらしかねません。大切なのは聞くこと、質問することであり、信念を押し付けることではありません。

 管理職が陥りやすいのは解決策の提示です。児童生徒や保護者への対応にまつわる悩みを打ち明けられると、経験豊富な管理職は困っている目の前の教員を助けたいがために、良かれと思って自分の経験に基づいた解決策を提示してしまいがちです。

 社会は変化し、児童生徒や保護者の置かれている状況も複雑化しています。目の前の教員の困り事が、管理職の経験に基づく策によって解決できるとは限りません。そもそも思い付きで解決できるようなことで人は悩まないでしょう。また、困っている教員にとって管理職は「百戦錬磨のつわもの」として映ることが多いようです。強者の論理は「〇〇先生ならできるでしょうけれど」と、落胆や自己肯定感の低下を招きます。

 傾聴を構成する工夫、傾聴を妨げる要素について研修会で話をすると、参加した管理職から「全くできていませんでした」「解決策の提示ばかりしていました」という感想をよく耳にします。教員は児童生徒や保護者への対応を通して、説得・評価・解決策の提示をよくします。説得・評価・解決策の提示への慣れは、教員に対しても悪気なく同じ行動を生み出しやすくするのかもしれません。

 教員のこころのケアをする前に気を付けたいのは、目の前の困っている教員は児童生徒ではないと認識すること、同じ職場の仲間として対等性を意識すること、「話を聴く」準備をすること、すぐに解決できないことに耐え伴走する力を持つことのような気がしています。(おわり)

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