第8回 見取りのねらいを定める

第8回 見取りのねらいを定める
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 見取りのチャンスは日常の何げない場面にたくさん転がっているものですが、教師の側から見取りの「ねらい」を定めることもできます。

 ある時、教育実習の研究授業を数日後に控えた学生が、「元気なクラスなのに、授業になると元気がなくなっちゃう」「もっと良いところが発揮される授業にしたい」という悩みを話してくれました。そこで、授業の本筋の中で生徒たちの個性を発揮させる場面を考えるなら、教材研究と発問づくりを丁寧に進めることを確認しました。

 研究授業当日、程よくチャレンジングな課題や生徒が気になるところに刺さる発問で、生徒がどんどん授業に乗っていきました。そして、教室の空気が充実感と軽やかさに満ちたところで、ニュージーランドの生徒から「morning tea」という果物やお菓子を軽くつまむ20分ほどの休み時間の習慣を教えてもらい、自分ならどんな言葉を返すかという最後の発問がなされました。すると「取りあえず言いたい」「ボケたい」「英語で何て言うか知りたい」と表現したい欲求のオンパレードとなり、実習生は最後に回収した全員分のプリントを読むのをすごく楽しみにしていました(個人的にはある女子生徒の「そのうち太るね」という冷静かつ辛辣(しんらつ)な一言に笑いました)。

 その実習生は元々この授業の計画を立てた時点で、最後の発問にみんながどう答えてくるかを楽しみにしていて、授業後には「あの子あんなこと考えているんだ」「あの子があんなに一生懸命考えてくれると思わなかった」など、驚き混じりの表情を見せていました。

 実習生はこれまでの授業での生徒たちの姿と、授業外での関わりの中で見取ってきた生徒たちの姿が彼女の中で一致せず、自身の授業の中でまだまだ生徒たちの個性を発揮させられていないのだと痛感していました。そのため、英語の文章の理解という授業の根幹を残しつつ、生徒たちに個性を発揮させるための「ステージ」を用意し、そこで生徒たちの演じる「エチュード」を見取りの「ねらい」として定めました。その結果、彼女がまだ知らなかった生徒たちの一面を見ることができたのです。

 授業内外の何でもないような生徒の言動を見取ることももちろん大切ですが、今回の実習生のように、普段の生活では見られない生徒の一面を授業の中で発揮させるような仕掛けをすることも教師の力量だと思います。

 前回の記事では見取りの「癖」、今回は見取りの「ねらい」について書いてきました。一人一人の教師の見取りの「癖」や「ねらい」の裏には、教師の「願い」があるのかもしれません。

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