この連載の合言葉は「バイオ・サイコ・ソーシャル(BPS)」です。BPSモデルは、文字通り、生物学的、心理学的、社会的という3つの要因を必ずセットで考えましょうという理論です。ポイントは、これら3つの要因が相互に関連していると捉えることです。
見えやすい要因にだけ注目して「これが不登校の原因だ」と決め付けるのは早計だということをBPSモデルは教えてくれます。不登校に限らず、人間のどのような行動も、それを規定する要因が一つだけということはあり得ません。
心理学では古くから「基本的帰属のエラー」と呼ばれる現象が知られています。人は自分が直面している問題については「他者(社会)のせい」にしがちであるのに、他者が直面している問題については「本人のせい(自己責任)」と捉えてしまう認知的なバイアスのことです。この現象が生じる理由の一つは「情報不足」にあります。
実際、自分に降りかかったことは直接的に経験していますが、他者に降りかかったことを直接的に知ることはできません。どのような環境で生活しているか、理不尽な出来事があったのか、それらのごく一部を見聞きするのがせいぜいです。その結果、「あいつがだらしない」「本人の努力不足」「自己責任」などと見てしまいがちです。
そんなときにこそ、このBPSモデルを思い出し、「バイオ・サイコ・ソーシャル」と唱えてみると、「きっと何かいろいろあったに違いない」と想像することができます。周りの人たちがこの想像力を持ち続けるか否かで、その後の展開は大きく変わってくるはずです。
例えば、「この生徒の不登校は『無気力』によるものだ」と感じるケースに出会ったとします。「無気力」はP=心理学的要因ですが、その背景にはヤングケアラーの立場に置かれているという事情(S=社会的要因)が隠れていて、幼少のきょうだいの世話で身体的に疲労が蓄積している(B=生物学的要因)という可能性もあります。
加えて、そのような状況に学校の先生や同級生たちが気付かないまま、「無気力」というレッテルを貼られているとしたら、まさにBPSの3要因の悪循環で「無気力」が増幅していくことになりかねません。
子どもは、自分の身に起きていることでも、その意味がよく分からず、言語化や援助要請が困難な場合もあります。しかも支援者からは見えにくく、孤立しがちです。大人の側がアンテナの感度を高め、想像力を発揮するためにこそ、このBPSモデルを役立ててみましょう。