立命館大学大学院教職研究科教授
不登校などの長期欠席の背景にある「複合的な要因」の解像度を高める合言葉「バイオ・サイコ・ソーシャル」の中身は多様です。最終回は、本連載で取り上げてきた例も交えながら、一つ一つはささいな要因でも、連鎖すると「足し算」ではなく「掛け算」のように影響が増大する状況を想像してみます。
突然ですが「コミュニケーション下手」な子どもを想像してみてください。普段、教室で同級生と話すのが苦手で、授業中もグループでの発言や全体での発表が苦手です。支援者としては、対人関係がより円滑になるようソーシャルスキルを身に付けさせる方向性を考えるかもしれません。
文部科学省の調査によると、「通常の学級」で特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は、2012年の6.5%から22年は8.8%に増えています。気になるのは、2回の調査ともこの割合が高学年ほど低いことです。
保護者が直面する困難も、この連載の合言葉「バイオ・サイコ・ソーシャル」の3要因から捉えることができます。児童生徒の3要因との入れ子構造を想定することで、見立てが広がります。
「病気」を理由とする長期欠席が急増中です。小学校では2021年度まで2万人前後で推移していたのが、22年度に約3万2千人、23年度は5万8千人近くになりました。中学校でも直近3年で、2万人台半ばから4万8千人近くにまで増えています。
第5回、第6回に続き、3回連続で「エピジェネティクス」に着目します。前回は小児慢性疲労症候群という生物学的要因と、その背景として小児期逆境体験という社会的要因が想定されることを取り上げました。今回は、関連して「愛着障害」を切り口としながら、見立てを踏まえた具体的な対応例まで考えてみます。
前回に続いて「エピジェネティクス」に着目します。今回は連載のテーマである不登校等の長期欠席支援という文脈に話を戻して、社会的要因が生物学的要因に影響を与え、それが心理学的要因にも影響を与えている可能性について考えます。
「バイオ・サイコ・ソーシャル」を合言葉とするこの連載も、いよいよ中盤に入ってきました。このタイミングで、これまで見えにくかった生物学的要因と社会的要因のつながりを考えるためのキーワードとして、「エピジェネティクス」を取り上げます。やや複雑な概念ですが、とても大切な考え方ですので第7回まで3回に分けて説明します。
BPSモデルを活用する利点は、生物学的要因、心理学的要因、社会的要因の3つをトータルに見て、児童生徒理解の幅を広げることにあります。今回は「聴覚情報処理障害(APD)」を取り上げます。「聴覚情報処理障害」は「聴覚障害」と異なり、音それ自体は聞こえているものの、そこから必要な情報を取り出すなどの処理がしづらい状態を指します。
前回は、情報不足による「基本的帰属のエラー」を乗り越えるために、BPSモデルを活用して想像力を高める必要があることについて述べました。特に「無気力」などの心理学的要因に目を奪われて、生物学的要因や社会的要因が見えていないケースは意外に多いように思われます。
この連載の合言葉は「バイオ・サイコ・ソーシャル(BPS)」です。BPSモデルは、文字通り、生物学的、心理学的、社会的という3つの要因を必ずセットで考えましょうという理論です。ポイントは、これら3つの要因が相互に関連していると捉えることです。
2023年度、不登校の小中学生は34万人(長期欠席全体では49万人)を超え、11年連続での増加となりました。12年度と比較して中学3年生で2.2倍、小学1年生では9.7倍と言われるとインパクトがあります。教職大学院に勤務する筆者に「なぜ不登校・長期欠席が増えているのか」と尋ねる人も増えているように感じます。
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