保護者が直面する困難も、この連載の合言葉「バイオ・サイコ・ソーシャル」の3要因から捉えることができます。児童生徒の3要因との入れ子構造を想定することで、見立てが広がります。
保護者の困難と言えば、まず生活困窮が想像されます。2023年度の小中学生の長期欠席のうち「経済的理由」は全国でわずか34人です。しかし、「その他」にカウントされている約4万1千人の中に、家族の介護や家事手伝いなど、いわゆるヤングケアラーなどが含まれています。
加えて、子どもの欠席が保護者の仕事に影響して収入が減ったり、家での食費負担が増えたりすることが、複数の支援団体の調査などから明らかになっています。こうした社会的要因は、子どもの長期欠席に伴う子育て上の不安など、心理学的要因への負荷を増幅させる恐れがあります。
また、「その他」には保護者の方針で子どもを学校に通わせないケースも含まれます。学校を巡る保護者の不信感や不安も、やはりBPSモデルの視点から理解されるべきです。例えば、保護者が小児期に逆境を体験した「ACEサバイバー」かもしれません。いじめ被害は数十年を経ても癒えず、わが子の不登校をきっかけに、封印されていた感情が一気に吹き出し、健康面に影響が出る可能性もあります。
ちなみに、第5~7回で取り上げた「エピジェネティクス」の関連研究では、親の子ども時代のトラウマ体験が、子世代のストレス感受性を高めている可能性も指摘されています。すなわち、数十年前の社会的要因が遺伝という生物学的要因に影響を与え、現在の子どもの心理学的要因を生じさせている可能性があるのです。
こうした経緯を背負っている親子が、教職員から「あの保護者はクレーマーだ」「親が駄目なら子も駄目だ」などとレッテルを貼られてはたまりません。「保護者は子どもを不安にさせないよう気丈に振る舞うべきだ」「もっと自助努力すべきだ」といった精神論も同様です。それらが負の社会的要因となって、他の要因へと連鎖する悪循環を加速させてしまいます。
必要なのは、保護者自身が不安を吐露でき、それを受け止めてくれる人がいるという安心・安全な場です。近年は「健康の社会的決定要因(SDH)」という考え方が注目されています。この社会的要因が保護因子として機能して、保護者の心理面が安定します。その様子は子どもにとっても新たな社会的要因となり、安心感につながります。
また、地域ぐるみで子どもを支える大人が増えることで、保護者にとって「レスパイトケア」のような効果が期待できるかもしれません。社会的要因の改善による支援の拡充が急務となっています。