第10回 「通常の学級」における多様性・包摂性の再考

第10回 「通常の学級」における多様性・包摂性の再考
【協賛企画】
広 告

 文部科学省の調査によると、「通常の学級」で特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は、2012年の6.5%から22年は8.8%に増えています。気になるのは、2回の調査ともこの割合が高学年ほど低いことです。

 22年の調査では、例えば「学習面」で著しい困難の見られた子どもが、小学1年生で9.1%いますが、小学3年生では8.2%、小学6年生では6.4%、中学1年生では4.1%、中学3年生では2.9%となっています。学習内容は難しくなるはずなのに、困難を感じる子どもが(見かけ上)減っていくのはなぜでしょうか。

 まず、分母は「通常の学級」です。もし、低学年時に著しい困難の見られた子どもが、進級や進学などを機に特別支援学級や特別支援学校に転籍すると、調査対象の分母から(分子からも)抜けてしまいます。実際、各学年とも全国で毎年数千人規模の転籍が生じています。

 そして、特に高学年以降は、学習面の困難により長期欠席となるケースが想定されます。抽出調査の仕組み上、欠席者を欠測値として扱うかどうか。もし、くじを引き直して別の子どもを調査対象にすると、かつて困難に直面していた子どもが分母に残ったまま、分子にはカウントされなくなります。

 12年からの10年間で特別支援学級の在籍者は2倍以上に増加し、不登校の児童生徒数も同じ期間に小中学校の合計で約2.7倍に増えました。それだけの子どもたちが「通常の学級からいなくなっている」ということです。厳しい言い方をすれば、事実上の「排除」にも見えます。

 また、上記調査では「著しい困難」の他に、特異な才能を持つ子どもたちにも着目する必要があります。文科省の有識者会議が21年に実施したアンケート調査では、いわゆる「2E(2e: twice-exceptional:二重に特別な)」当事者の声として、授業で発言すると雰囲気を壊してしまうので「分からないふり」をし、それを苦痛に感じていることなど、実に多様な回答が寄せられています。

 当事者にとっては授業が「分からない」ことも「分かり過ぎている」ことも、困難に違いありません。ただ、本当の意味での問題は、困難それ自体というよりも、そうした困難が周囲から理解されていないことです。その結果として、必要な配慮や支援を得られず、「意味のある参加」に至っていないことに困難を感じるのだと考えられます。

 必要なのは「バイオ・サイコ・ソーシャル」を合言葉に、児童生徒のストレングス(強み)、すなわち良さや長所、可能性などを発見して、それが生きるような環境を整えることです。共生社会の実現に向けて、将来的に「通常の学級」がより多様な児童生徒を包摂できるよう、エビデンスに基づいて学級規模や教職員の専門性などの具体的条件を探る時期に来ています。

広 告
広 告