突然ですが「コミュニケーション下手」な子どもを想像してみてください。普段、教室で同級生と話すのが苦手で、授業中もグループでの発言や全体での発表が苦手です。支援者としては、対人関係がより円滑になるようソーシャルスキルを身に付けさせる方向性を考えるかもしれません。
しかし、その子には聴覚情報処理障害(第4回参照)のような背景があるのかもしれませんし、そもそも弱みの克服という視点には限界もあります。この連載の合言葉「バイオ・サイコ・ソーシャル」に基づくと、環境(社会的要因)との双方向的な関係性の中でスキル獲得(心理学的要因)の意味を捉える必要があり、せっかくトレーニングで獲得したスキルを使っても、周りが受け止めてくれなければ、新たなトラウマ体験を重ねることになりかねません。
故に、見立ての際には必ずその児童生徒の「ストレングス」(強み)、すなわち良さや長所、可能性などにセットで目を向けるべきです。この点は、生徒指導提要においても、BPSモデルの紹介とともに強調されています。その上で、子どもの強みが生きる環境を考えます。
36年前の秋、「コミュニケーション下手」だった中学1年の筆者は、不登校になって1年半が経過し、ほぼひきこもりで昼夜逆転状態でした。ある日、不登校になる前に鉄道趣味のイベントで知り合った1学年下の他校生から数年ぶりに電話があり、改築されたターミナル駅と新型電車の写真を撮りに行こうと誘われました。
固定電話しかなかった時代ゆえ、その場で決断せざるを得ず、同級生に目撃されにくそうな日曜の朝7時に駅で待ち合わせる約束をしました。当日、駅に行くと電話の主とその知人の高校2年生、浪人生の3人がホームで待っていました。
その後は不思議な異年齢集団4人組で毎週のように出掛けるようになり、筆者はひきこもりから脱しました。お互いの強みが鉄道趣味にあることを理解し、彼らは筆者の強みが特に時刻表の読み込みと車両運用の推測にあることを見いだし、うまく活用してくれたのです。
彼らは筆者が不登校だとは知らず、当然「支援」の意図もありませんでしたが、まさにロールモデルのような存在で、筆者にとっては家でも学校でもない第三の居場所「サードプレイス」となりました。その後、タイミング良く担任の家庭訪問があり、教室に復帰しました。最初の電話から3カ月余りたった頃でした。
趣味などを共有する中で生まれるコミュニケーションは、「コンテンツ」の力ゆえにスキルに依存しない形で成り立ち、しかも結果としてスキルを育てます。今は校内居場所カフェなど「セカンドプレイス内サードプレイス」も広がりつつあります。校内外でこのような空間と関係性に出会うチャンスが増えることを期待しています。