不登校などの長期欠席の背景にある「複合的な要因」の解像度を高める合言葉「バイオ・サイコ・ソーシャル」の中身は多様です。最終回は、本連載で取り上げてきた例も交えながら、一つ一つはささいな要因でも、連鎖すると「足し算」ではなく「掛け算」のように影響が増大する状況を想像してみます。
まず、第2回で取り上げた「基本的帰属のエラー」を自覚し、複数の教職員の視点を突き合わせて、第3回の「いじめ」をはじめとする社会的要因の見逃しを減らすことです。そうすると、BPSの3要因を巡る循環が芋づる式に想像しやすくなります。
「生徒指導提要」に例示されている発達障害(生物学的要因)であれば、教師による不適切な叱責(しっせき)や合理的配慮の不提供が繰り返され、それをまねする他の児童生徒の行為が「いじめ」となる二次的な問題(社会的要因)がしばしば見られます。第4・6・7回に登場した意欲低下(心理学的要因)は、そうした背景の結果という面も考えられます。
また、第4回の聴覚情報処理障害(生物学的要因)の他、教師および同級生との関係性(社会的要因)など、協働的な学びのネックになり得る背景も視野に入れながら、日常の学校風土や教室文化の見直しにまで想像が及びます。そして第8~9回で取り上げた病気など(生物学的要因)の視点から、世代を超えた影響を踏まえた支援の可能性も開かれます。
見えにくいところでは、性を巡る諸課題(例えば性被害や性的マイノリティーへの無理解など)も気になります。トラウマ体験を自覚するまでに時間を要したり、誰かに相談しづらかったりする中で、第5~7回で取り上げたエピジェネティクスも絡みながら、表面上は学習意欲低下などの心理学的要因だけが見えている恐れもあります。
想像されにくい要因も多様です。一例ですが、文字や数字を見ると色が知覚されるなどの「共感覚」は認知度が低く、周囲から理解されないことがストレスになるという当事者もいます。化学物質過敏症では、給食用白衣などの洗濯時に使用された柔軟剤による「香害」も注目されています。恐らくまだ名前すら付いていない現象も無数にあるはずなので、よく分からないながらも「何かあるのだろう」と思いながら継続的に伴走する「ネガティブ・ケイパビリティ」も大切です。
大切なのは、文理融合的な「バイオ・サイコ・ソーシャル」を合言葉に、科学的な研究の進展を踏まえて人間理解の視点と想像力をバージョンアップし続けることです。また、STEAM教育の一環としてこの想像力を大人のみならず子どもたちにも共有する時代に来ています。そうした想像力が、事後的な支援のみならず重大事態などの未然防止にもつながるはずです。(おわり)