子どもたちが問いを出して対話する「p4c」の手法は、さまざまな教科に取り入れられています。2007年にハワイの「p4c」を初めて日本の学校に紹介することになったきっかけは、道徳の時間の手法として注目されたことでした。
当時はまだ「考え議論する道徳」という考え方が示される前でしたので、「『p4c』で道徳は教えられるのか」という疑問が多く寄せられました。その後、議論を通して道徳的価値を多面的に捉えることがそれまで以上に重視されるようになり、道徳科での「p4c」の取り組みが蓄積されていきました。また、学校教育の全体的な方針として「主体的・対話的で深い学び」という考え方が示されたことで、道徳科に限らず、国語、社会、理科、家庭科、英語など、さまざまな教科で「p4c」を生かした授業が展開されています。
学んだことから問いを考え、対話をするというのがベーシックな方法ですが、単元の初めに対話をすることもあります。そうすることで、単元のテーマを自分自身の関心とひも付け、自分の問いをもってその後の学習に臨むことができます。対話の長さも、1コマ分の授業時間を使う場合から、10~15分の対話を授業の合間に組み込む場合までさまざまです。短い対話では、テーマについて多角的に問い深めることは難しいかもしれませんが、定期的に行えば問うことや対話することを習慣化するきっかけとなります。
「p4c」の対話は子どもたちが主体的に進めるため、対話の問いや流れを教師が事前に設定することができません。しかし、自由に問い深めていく対話と教科の学習を往還することで、児童生徒の関心と教科の学びを結び付けることができます。
例として、福井県立若狭高校の松村一太朗教諭による社会科の授業を紹介します。生徒たちは、経済の基礎知識を学んだ後、競争社会に関する論考を読み、対話をしました。選んだ問いは「受験や勉強の面において、自己目的化した競争は駄目なのか」でした。経済の文脈から離れた問いですが、生徒たちは身近な文脈に引き寄せて競争について考えたかったのでしょう。対話では、競争が目的化することの危険性、点を取ることと習得することの違い、競争のシステムによる支配などについて語られ、さらには対話を深めようという教師の判断で、次の時間も対話を継続することになりました。
その中で「競争のシステムは勝者によって構築されたのではないか」という論点が浮上し、「現時点で社会的に力を持ちやすい人がその力を維持するために社会制度を維持している。資本主義を作り出したのは、労働者ではなかった」という考えが示されました。このように問いや対話が授業の文脈から離れたとしても、そこで深めた理解を学習内容と結び付けていくことで、教科の学びへと還元されていきます。この往還のプロセスを意識しながら授業を進めていくことは、教師が「p4c」を取り入れる際の重要な役割です。