宮城県白石市に「白石きぼう学園」という公立の小中一貫校があります。2023(令和5)年4月に開校したこの学校は、学びの多様化学校の一つで、不登校の児童生徒のための学びの場を提供しています。不登校の急増は全国的な課題となっていますが、白石市でも同様の傾向が見られたことから学びの多様化学校を設置し、子どもたちの多様な学びを支援することを決めました。
白石きぼう学園の経営方針は、「学校の主役は、子どもたち」です。学校はこうあるべきという固定観念に捉われず、システムを柔軟に変化させ、子どもたちが学びたいと思う学校づくりに取り組んでいます。
「p4c」の対話は、この学校を特徴付ける取り組みの一つです。対話を通して、自分を表現すること、他者と関わること、共に考えることを経験し、自分も他者も大切にできる感性を育もうとしています。学園の設立に尽力した白石市教育長の半沢芳典氏は、教員としての過去の経験から、不登校の子どもたちに「p4c」が有効なのではないかと考え、取り入れたと言います。
白石市では、宮城教育大学教育復興支援センターに設置された上廣倫理・哲学教育研究室(現「上廣倫理教育アカデミー」)との連携の下、14(平成26)年から「p4c」の実践に取り組んできました。学校・学級の状況に応じて多様な「p4c」の生かし方がありましたが、対話に従事する教員は定期的に研究会を開催し、学校の枠を超えて実践事例を持ち寄り、学び合ってきました。白石市では、16(平成28)年より「p4c」を教育政策の中に位置付け、対話を生かした教育課程の実現に市全体で取り組んでいます。
白石市の「p4c」を支援する中で最も印象的だったことは、対話が多様な子どもたちを包摂する機会となっていることでした。発達障害の診断を受けたある児童は、人と異なる見方・考え方をするため「浮いた子」でしたが、そうした特性がむしろ対話を活性化するエンジンとなるため、「p4c」の時間では自分らしさを大切にすることができ、また他の児童との関係性も深まりました。発言できない、あるいは対話の輪に入れない児童も、対話を重ねていくことで徐々に居場所を見つけ、自分を表現することを楽しめるようになりました。「p4c」がインクルーシブな学級づくりにつながっていることを実感しました。
白石きぼう学園は、「今のあなたを認め、受け入れる学校」となることを明言しています。まずは子どもたちが自分を大切にできるようになること、そして他者と関わりながら認め合えるようになれることが、学びの土台づくりにつながります。「p4c」には、そうした教育の実現において、果たし得る役割がまだまだあると考えています。