2010年の夏、私は博士留学を機に小学1年生の息子を連れて中国に移住しました。
当時は「ゆとり教育」による日本の子どもの学力低下が懸念されていた頃で、「中国の方がしっかり勉強させてくれるかもしれない」などと漠然と考えていましたが、実際のところ中国の教育事情は何も知りませんでした。
日本人学校は送迎バスや給食がないため通わせるのが難しく、留学先の職員に相談したところ、「インターナショナルスクール」を紹介されました。車で30分ほどの距離ですが、送り迎えに加え朝・昼の食事がありました。
中国に到着し、息子と一緒に学校を訪ねると、職員から「あなたの子どもは中国語が話せないので、ここで1年間勉強してから小学校に上がった方がいい」と、「学前班」と呼ばれるクラスに案内されました。後々になって分かったことですが、「学前班」は小学校の勉強への橋渡しを行う1年過程のカリキュラムで、中国の教育熱の副産物と言えます。
中国は小学1年生から大学入試をゴールとした詰め込み教育が始まり、定期テストもきっちり行われるため、教育熱心な親は子どもに「学前班」で先取り学習をさせて、「小1の壁」を乗り越えられるように備えるのです。
保育園や幼稚園とは別物で、幼稚園に附属していたり、小学校の予備課程扱いだったり、公教育の隙間を埋めるようなあいまいな存在でした。幸か不幸か私の中国語力では職員の説明をよく理解できず、取りあえず通える場ができて一安心という気持ちで息子を預けましたが、その判断は大正解でした。本来の学年通りに小学校に通っていたら、息子は授業に全くついて行けず、親子共に早々にギブアップしていた可能性もあったと思います。息子は1年後、地元の小学校に入学しました。中国の学校は9月始まりのため、日本の学年より1年半遅れでの小学校入学となりましたが、体育の授業などではアドバンテージになり、本人的には悪くなかったようです。
日本は外国からの移住者が増え、小学校の先生がコミュニケーションに苦労していると聞きます。何事もルール通りにやるのが日本の良いところではありますが、学校と子どもの双方の負担を減らし、スムーズに環境に適応できるようにするために、現状の教育制度に無理にはめ込まず、柔軟に対応してもよいのではないでしょうか。
そういえば余談がありました。私たち親子は「インターナショナルスクール」と聞いてその学校に行ったわけですが、すぐに中国人しかいないことに気付きました。そこは英米圏への留学を目指す中国人に国際教育を行う私立学校だったのです。日本の大学で一時期、国際学部を新設する動きが活発化しましたが、この頃の中国も国際化ブームで校名に「双語(2言語の意味)」「国際」をつけるのがトレンドになっていた時代でした。