2024年度全国学力・学習状況調査の、経年変化分析調査の結果が7月末に公表された。非公開の同一問題で実施される経年変化分析調査は、前回(2021年度)までの結果と比較することができる。既に本紙電子版が報じているように、小学校の国語と算数、中学校の国語と英語の平均スコアが低下した。平均スコアだけでなく、公開された箱ひげ図などのデータからも学力低下の現状を見ることができる。次期学習指導要領に向けて、この原因を省察しておきたい。
かつての学校では、授業中に理解が追い付かなかった子を放課後に残し、徹底して教えてきた。しかし、今の学校にはそのような時間的余裕はない。子どもたちも忙しく、定時に下校させることが優先される。今年度の全国学力・学習状況調査の質問紙調査でも「授業の内容がよく分かる」と回答した子どもたちが減少傾向にある。分からないことがそのままになっており、フォローされていないことも考えられる。
また、教える内容が多くなり、教師も教科書を終えることを目指すため、立ち止まっていられないという葛藤もあるだろう。だからこそ学習指導要領の内容の精選と、ゆとりある教育課程が必要なのだ。
「主体的・対話的で深い学び」を視点とする授業改善が進んでいる。しかし、主体性の名の下に、教師が積極的に教えるということを避けていないだろうか。ティーチャーからファシリテーターへと教師の役割は変化し、教師が一方的に教えることよりも子どもたちの思考を紡ぎながらゴールに導いていくことが大切にされている。しかし、それは教師が教えないということではない。場面によっては教師が主体性を発揮する場面も必要である。
子どもたちに任せる部分と教師がしっかり教える部分を明確に意識しなければならない。考える材料や方法を持たないまま、考える時間ばかり与えられても学びにはならない。これこそ、諮問文に示された現行学習指導要領の課題である「学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ば」という指摘に当たる部分ではないだろうか。
1989(平成元)年の学習指導要領改訂以来、ずっと重視されてきた「思考力・判断力・表現力」。現行学習指導要領でも、育成を目指す資質・能力の3つの柱の一つとして引き継がれている。しかし、思考力の育成を重視するあまり、知識・技能の習得を軽視していないだろうか。知識・技能を活用して課題を解決するために必要な力が思考力・判断力・表現力である。従って、知識・技能の習得と思考力の育成は、どちらか一方に偏るものではない。
まず、基礎となる知識や技能をしっかりと定着させ、その上で、それらを活用して課題を解決したり、新たなものを創造したりする活動を組み合わせることで思考力が育成されていくのだ。次期学習指導要領では、このことを明示すべきである。
今回の分析調査で特徴的なのは、無回答率の増加である。記述式の問題ではその傾向が強くなる。子どもたちの学習意欲や学びに向かう力が低下していないだろうか。「早く答えを教えて」という言葉が表しているように、問題解決の楽しさよりも、最短で解答を求めることを目指す子どもたちが増えている。文章を読むことを諦めたり、言葉で自分の考えを表現するのを避けたりすることは、学びの放棄である。
そのためにも、自ら問いを立て、自分事として探究していく学び方が必要である。次期学習指導要領では全ての教科を探究的に学び、学ぶ意味や意義を実感できるようにしていくことが必要である。
経年変化分析調査では保護者への質問についても経年比較できる。「普段(学校のある日)、お子さんと学校の勉強のことについて話をしていますか」(「いつもしている」+「よくしている」)は、小学校で2.1ポイント、中学校で3.3ポイント減少。「学校生活が楽しければ、良い成績をとることにはこだわらないと考えますか」(「当てはまる」+「どちらかといえば当てはまる」)では、小学校で1.3ポイント、中学校で1.7ポイント上昇している。
少子化により高校も大学も全入時代を迎え、学校で学ぶことの価値や学校の存在価値が軽くなってきている。コロナ禍以降、その傾向が強まった。上級学校へのステップのみが学校教育の存在価値ではない。多様な他者と協働しながら学び続ける力と術を獲得していくことが学校教育の意義である。次期学習指導要領では、このことを大前提として明記し、伝えていかなければ学校教育は崩壊してしまう。