10月に入り、多くの自治体で教員採用試験の合格発表が行われている。合格者は来年の4月、晴れて念願の教壇に立つ自分の姿を思い浮かべていることと思う。ただ、浮かれているだけでなく、その瞬間に向けて準備が必要である。
教員にとって子供たちとの出会いは一生忘れられないものである。始業式、入学式を迎えると、初めての子供たちとの出会いの日がやってくる。緊張の瞬間でもある。学校長から全員の前で紹介され、式の終了後には教室で子供たちの前に立つことになる。
教壇に立ち、ゆっくりと子供たちの顔を見ていく。晴れがましい気持ちとともに、若干の不安も生じるだろう。ここで第一声を発する。多くは自己紹介から始まるが、あまり長々と話さない方がいいと思われる。この日から子供たちとの関わりが始まるので、少しずつ子供たちに紹介していくことの方が受け止められやすいと考える。
大切なのは、学級担任であれば自分が子供たちとどのような学級をつくっていくのかという方針、意欲などを伝えることである。後日行われる保護者会にも通じるが、しっかりと教育観なり、信念を短めに伝えることが自己紹介より大切である。
自分は初任者なのは事実ではあるが、子供たちにとっては、とりわけ小学校の子供たちには、先輩の教員、ベテランの教員と同じように「私たちの担任の先生」である。しっかりとした姿勢を見せることが重要である。子供たちは敏感に教員の姿勢を読み取る力を持っている。堂々と自信を持って、教育を語ることである。
ここが信頼の始まりでもある。まさにこのために、合格者は改めて教育観、教育に対する信念を確立し、それを子供たちに話すための言葉を持たなくてはならない。もちろん、これまでも取り組んできたことだろう。しかし、それは試験のための学びであり、対策という面が強かった。今後は教員として対峙する子供たちのために学ぶのである。前回取り上げた教育に関する法令をはじめ、学習指導や児童生徒理解に関すること、さまざまな教育時事などを、子供たちとの関わりの面から学び直してほしい。また、教育に関することばかりでなくてもよい。文学、アート、演劇、映画、スポーツ、旅行、多様な人たちとの触れ合いなどからも教員人生に役立つ多くのことが学べる。それらをもとに教育観を改めて確立し、子供たちに披歴してほしいのである。
1学期には、多くの学校で保護者会も開かれる。この日は多くの保護者との初めての出会いである。ここでも大切なのは、自分は初任者ではあるけれども、子供たちにとっては一人の担任であるという意識である。学級経営について、子供たちとの関りについてしっかりと自分の思いを伝えることが必要である。
そのためには、前述のような学びが求められる。その上で保護者会の前に同学年の教員や管理職らから保護者会への臨む姿勢などについて聞いておくとよいだろう。
ここからは着任までの具体的なことを述べていく。着任までの主なスケジュールはまとめたを参照してほしい。
合格発表から採用・着任まで
(代表的なスケジュール。自治体によって異るので、各自で確認を)
○合格発表 9月下旬~10月下旬
(合格すると合格通知と関連書類が送られてくる)
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○採用候補者名簿登載
(名簿登載期間は、原則として2022年4月1日~23年3月31日)
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○教育委員会の説明会 10月上旬~11月下旬
(4月の採用日までの流れを説明)
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○面接(市区町村教委、校長など) 10月~翌年3月
(自治体によっては研修会などを開催)
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○採用内定・着任校決定 1月~3月
(書面、電話などで通知)
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○着任 2023年4月1日
これから3月にかけて合格者、補欠合格者・期限付任用者の順に、区市町村の教育委員会および学校の面接が始まる。面接では、合格者の履歴などが書かれた書類を基に、直接詳しい話を聞き、配属校を決めることになる。
届け出た連絡先に電話やメールなどで面接の日時や場所などの連絡が来るのでできるだけ連絡が取れる状況にしておく。アルバイト先には電話やメールを一定時間ごとに確認させてもらいたいということを伝えておく必要があるだろう。
現在仕事に就いている人は、3月末ぎりぎりまで仕事をして4月1日から学校勤務という余裕のない日程は、体調を崩しやすいので避けるようにしたい。
最初の配属校は、面接の結果、取得免許との関わりで、小中高校・特別支援学校などの学校種が具体的に決まる。自分の希望とは異なることもある。自分の想定外のことであったら、即答せずに率直に自分の考えを伝えたり、1日ぐらい時間をもらって信頼できる人に相談したりして、じっくり考えてもよい。面接の前にどのような教員になりたいのか、優先することは何かなど、しっかりした考えをまとめておきたい。
配属校が決まったら、ぜひやっておきたいことがある。地域を知ることである。着任すると、仕事の忙しさのために家と学校をただ毎日行ったり来たりしているだけという状況の初任者が多いと思われる。学校は地域とともに存在している。子供たちは、毎日そこで生活し育っている。そんな地域のさまざまな環境を知ることは教育活動を進めていく上で極めて重要である。
何も予定をしっかりと立てて取り組むということではなく、時間が空いた時にふらっと向かってみるとよいだろう。公園、商店街、工場、ゲームセンター、図書館などの施設、塾の有無といったものの確認から、交差点、交番、消火器、AEDのある場所、交通状況など子供たちの安全に関わる施設・設備の確認なども地域を知る上で重要である。土日などの休日を活用して地域に出掛け、公園や商店街などで遊ぶ子供たちの様子を見てみるのもよいだろう。子供たちの特徴があらかじめつかめるかもしれない。
また、学習活動を進めて行く上でも地域を知ることは重要である。総合、社会科、生活科などの指導にあたっては、学校の地域をよく知っておくことが必要である。地域を知っておくことで多くの情報が得られるものである。