教職へのやる気と熱意を表現し、他と差を付ける論作文にするにはどうしたらよいか、そのポイントを紹介する第3回目。今回は、教職への資質を感じさせるための工夫などを紹介する。
論作文において最も重要なのは、何よりも自分自身の考え方・意見の主張があるということである。しかし、それは課題内容から外れ、飛躍してまでも身勝手な自己の意見を振り回してもよい、ということではない。あくまでも与えられた課題を的確に分析し、出題の狙いを理解した上で、自己の主張をまとめた文章でなくてはならないのである。
そのためには、理解力、発想力、構成力を示す論作文とならなくてはならない。採点官にその能力を感じ取らせるためには、以下の点に留意して取り組みたい。
▽理解力について
(1)設問は何を求めているのか=設問を熟読し、設問に含まれている課題を明確にする。
(2)社会に対する問題意識=日頃から社会に対する問題意識や基礎的な知識を持っていることが大切。事実の確認を重ね、予断を捨てて判断する。
(3)教育に関する問題意識=ネット、テレビ、新聞、雑誌などに普段から目を通し、今、何が教育課題なのか、教育の方向はどうなっているのかなどに関心を持つ。そのことについて自分自身の考えをまとめるという習慣を付ける。
▽発想力について
(1)創造的で個性的な発想=一般論を書いただけでは、評価者(採点官)にはアピ―ルできない。明確なものや心に強く残るものであればよりよい。
(3)社会への関心=現代社会に対する基礎知識を培い、豊かな発想を生み出す。
▽構成力について
(1)一般的で効果的な構成=「序論―本論―結論・まとめ」(三段法)、これは単純だが説得力がある展開にする。
(2)「序論」=定義付け、設問についての受け止めや問題提起をする。管理職としての立場を踏まえ、論文としての全体構成を整え方向付けをする。長くならないように留意する。
(3)「本論」=設問に関する検討を行う論理的展開の中心部分。自分の意見を明確に提示し、具体例の根拠の提示を行う。全部書こうと思わず、論点を絞り、柱を多くても3本くらいにする。柱は内容の分かるインパクトある見出しを工夫する。
教採試験の論作文を読んでいて、非常に引き込まれる内容のものに出合うことがある。それは論述者の具体的な学びが、その論述の中から読み取れる場合だ。提示された課題に対して、自分なりの考えを論述したり、具体的な方策を述べたりという部分で、例えば教育実習における学習指導や生活指導に関わる具体的な学びが、その論述の中に効果的に生かされていると読み手に訴えかけるものが大きい。
換言すれば、そうした具体的な体験に基づかない論述は、あまり読み手の心に響いてこないということである。
とりわけ「教員になったとき、課題に対してどのように子供たちの指導をしていくか」というような方策を問われているような場合、体験のまとめ方や表現の仕方が論文の質の高まりや広がりにより大きく影響してくるのである。
「教育実習で、道徳の授業に取り組んだとき、課題を追究する際、ロールプレーを用いて子供たちに課題を考えさせた。子供たちがロールプレーを通して考えを深めていく様子に感動を覚えるとともに、子供たちの興味関心を喚起するような工夫が大切なことを実感した。そこで私は……」というような論述の仕方は具体的な実践に基づいている論文として、読み手の心を引き付けていくのである。
また、こうした日々の学習指導に関わることだけでなく、教員としての基本的な資質などを問われているような場合でも同様だ。
「6年生のときの担任の先生は、帰りの会の最後に、本を読んでくれました。今でもそのときのお話が心に残っています。私が教員になったら……」などのように、教員として子供たちとの心の交流を大切にしたという思いを、小学生時代の体験を生かして論述していると強く心に訴えることができる。
こうした具体的な姿を通しての影響を論述の中に生かすことは、論作文に膨らみと温かみを付け加えてくれるのである。教育実習やボランティアでの体験、さらには自分が受けてきた教育における体験を論文に生かすことがポイントである。
論作文を作成するためには、与えられた課題についての背景や現状、さらには一般的にどのような意見が出ているかということなどについての知的な理解が必要だ。それがあるかないかで、論作文の出来具合に大きく影響してくる。
採点官も論作文の背後にある論者の知的なレベルを読み取り、教育者としてふさわしいかどうか見極めるのである。
例えば、「深い学びの重要性」ということがテーマとして設定されている場合において、その深い学びの重要性を論作文中で論じる際、次のようなことが理解された上で論述が進められているかということが問われてくるのである。
・深い学びが重視されるようになってきた歴史的な流れ。
・深い学びが重視されるようになった背景や現状。
・深い学びに対する種々の意見に対する関心と理解。
これらの内容が論作文の中で表現されているかどうかということではなく、こうしたことを理解した上で論述しているかが評価されるのである。
学習意欲についての課題、学校評価についての課題、教員の働き方改革、子供たちを巡る虐待などの諸課題、保護者との関わりについての課題などが採用試験のテーマとして出されることが多くなってきている。
こうした課題が今日的課題であるとともに、それはまた歴史的な流れや社会的な背景を伴って出されてきている課題であるということの理解が大切になってくる。情報収集を怠りなく行うことが成功への道である。