皆さん、こんにちは。仙台を拠点とする教員採用試験対策専門スクールkei塾主任講師の神谷です。今回は前回の続きとして2022年12月に改訂版が公開された「生徒指導提要」のうち「個別の課題に対する生徒指導」の中から、学校現場において重要課題である「いじめ」と「不登校」について要点を解説します。
◇ ◇ ◇
◆第Ⅱ部個別の課題に対する生徒指導について
第Ⅱ部では、「いじめ」「暴力行為」「自殺」「不登校」などの個別課題への対応についてまとめられています。また、「性に関する課題」の中において、性犯罪・性暴力に関する対応として「生命(いのち)の安全教育」について言及されているところや、性的マイノリティーに関する課題と対応が盛り込まれたところが重要です。全体的に、10年版の生徒指導提要よりも記述内容が詳しくなり、新しい内容も盛り込みながら具体的な対応のポイントが示されています。
第4章「いじめ」においては、いじめ防止対策推進法に示された定義にのっとりいじめの積極的な認知について言及するとともに、(1)各学校の「いじめ防止基本方針」の具体的展開に向けた見直しと共有(2)学校内外の連携を基盤に実効的に機能する学校いじめ対策組織の構築(3)事案発生後の困難課題対応的生徒指導から、全ての児童生徒を対象とする発達支持的生徒指導および課題予防的生徒指導への転換(4)いじめを生まない環境づくりと児童生徒がいじめをしない態度や能力を身に付けるような働き掛け――を行うことを求めています。
「積極的な生徒指導」という観点からは、特に(3)が重要で、いじめに対応する「発達支持的生徒指導」の視点や「課題予防的生徒指導」について生徒指導提要本文を確認しておきましょう。また、組織的な対応の起点となる「学校いじめ対策組織」の役割について、図の通り示されています。
生徒指導提要と合わせて、いじめ防止対策推進法やいじめ防止基本方針についても内容を確認し、要点を押さえるようにしましょう。
第10章「不登校」では、不登校の背景として、児童生徒や学校側の要因のみならず、社会全体の変化も影響していることを指摘し、「教育の観点のみで捉えて対応することには限界がある」としています。その上で、「学校や教育関係者が一層充実した支援や家庭への働きかけ等を行うとともに、学校への支援体制を整備し、関係機関との連携協力等のネットワークによる支援の充実を図ること」の重要性を強調しています(生徒指導提要第2.部第10章不登校)。
16年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(確保法)」が成立し、翌17年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」が定められました。ここでは、不登校を、多様な要因・背景により「結果として不登校になっている」ということであり、その行為を「問題行動」と判断してはならないという点を強く打ち出しています。
不登校対策につながる発達支持的な生徒指導の観点として、児童生徒にとって学校が安全・安心な居場所となるための「魅力ある学校づくり」と「学習状況に応じた指導の工夫」の実現ということが示されています。後者に関連して「学業不振」は不登校の要因の一つとして挙げられています。個別最適な学びを推進し、全ての児童生徒が、学業への意欲を高めたり、学級・ホームルームでの自己存在感を感受したりすることを目指すことが大切です。また、課題未然防止教育の視点から、「児童生徒が自らの精神的な状況について理解し、安心して周囲の大人や友人にSOSを出す方法を身に付けるための教育の推進」も示されています。困難課題対応的生徒指導と併せて確認しておきましょう。
5分でわかる教育時事2023 第6回 問題編
1 次の各文は「生徒指導提要」で述べられた学校いじめ対策組織の役割についての記述である。適切でないものを1つ選びなさい。
1.学校のいじめ防止基本方針に基づく年間指導計画(いじめアンケートや教育相談週間、道徳科や学級・ホームルーム活動等におけるいじめ防止の取組など)の作成・実行の中核的役割を果たします。加えて、校内研修の企画・実施も重要な役割です。
2.いじめの相談・通報の窓口になります。教職員が個別に認知した情報は,主観によるものが多くみられるため,確証のある情報を収集・整理・記録して共有します。
3.いじめの疑いのある情報があった場合には、緊急会議を開催し、情報の迅速な共有、関係児童生徒へのアンケート調査や聴き取りの実施、指導・援助の体制の構築、方針の決定と保護者との連携といった対応をします。
4.学校のいじめ防止基本方針が学校の実情に即して適切に機能しているか否かについての点検を行うとともに、いじめ対策として進められている取組が効果的なものになっているかどうか、PDCA サイクルで検証を行う役割を担います。
5.いじめの重大事態の調査を学校主体で行う場合には、調査組織の母体にもなります。
2 次の文章は「生徒指導提要 第4章 いじめ」の一部である。空欄に当てはまる語句を書きなさい。
いじめに取り組む基本姿勢は、人権尊重の精神を貫いた教育活動を展開することです。したがって、児童生徒が人権意識を高め、共生的な社会の一員として( 1 )を身に付けるような働きかけを日常の教育活動を通して行うことが、いじめ防止につながる発達支持的生徒指導と考えることができます。
児童生徒が、「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」ができる( 2 )を身に付けるように働きかけるためには、教職員が、一人一人の児童生徒が大切にされることを目指す人権教育と生徒指導は密接な関係にあり、いじめ防止につながる相乗的な効果を持つものであることを意識することが必要です。
また、( 1 )を育む教育を行うことも重要です。いじめ防止につながるという視点からは、発達段階に応じた法教育を通じて、「誰もが法によって守られている」、「法を守ることによって社会の安全が保たれる」という意識を高めるとともに、学校に市民社会の( 3 )を持ち込むことも必要です。その際、児童生徒のみならず、教職員も保護者も、学校に関係する地域の人々も、市民社会の( 3 )を尊重することが求められます。
児童生徒が「( 4 )を認め、人権侵害をしない人」へと育つためには、学校や学級が、人権が尊重され、安心して過ごせる場となることが必要です。こうした学校・学級の雰囲気を経験することによって、児童生徒の人権感覚や( 5 )は養われます。
3 次の文章は「生徒指導提要 第10章 不登校」の一部で「支援の目標」について述べられた部分である。空欄に当てはまる語句を書きなさい。
不登校児童生徒への支援の目標は、将来、児童生徒が精神的にも経済的にも自立し、豊かな人生を送れるような、( 1 )を果たすことです。そのため、不登校児童生徒への支援においては、学校に登校するという結果のみを目標とするのではなく、児童生徒が自らの( 2 )を主体的に捉え、( 1 )を目指せるように支援を行うことが求められます。
このことは、「児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる( 3 )を支える」という生徒指導の目的そのものと重なるものであると言えます。
解答・解説
1.解答2 解説 2:正しくは,「いじめの相談・通報の窓口になります。複数の教職員が個別に認知した情報を収集・整理・記録して共有します。教職員が感じた些細な兆候や懸念、児童生徒からの訴えを抱え込んだり、対応不要であると個人で判断したりせずに、進んで報告・相談できるように環境を整備することが重要です。」である。
2.解答 1:市民性 2:人権感覚 3:ルール 4:多様性 5:共生感覚
3.解答 1:社会的自立 2:進路 3:自己実現
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