【社会をつくり出す武器としての言語活動(2)】中動態的な授業づくりの視点

【社会をつくり出す武器としての言語活動(2)】中動態的な授業づくりの視点
【協賛企画】
広 告

 前回は、言語活動を真に充実したものとするために、「文脈の創発」という視点を提案した。今回は、そのために必要な「構え」について考えたい。まずはキーワードとなる「中動態」を説明しよう。

 中動態とは、言語学・哲学の用語で、能動・受動の区別を超えた構えのことを言う。例えば、剣道の試合では、相手と自分との相互作用の中で「これしかない」というような固有の姿勢がとられた瞬間に「一本」が決まる。「相互作用」による「能動・受動の超越」を経た「固有性の創発」が中動態の鍵となる。

 中動態の視点から授業を再定義すると、生徒と教師の相互作用によって、固有の文脈を創発する営みと捉えることができよう。こうした営みのためには、「教師がやりたい授業をする」という構えから「生徒の文脈を引き受けて授業を構築する」という構えへの転換が求められる。

 そこで第一に求められるのが「教師の主体性」である。ただし、これはいわゆる「能動的な主体性」とは異なる。これまでの主体性(agency)論では、「したい!」という本人の思いを実行に移すような「能動的な主体性」が議論されてきた。

 一方で、人類学や認知科学の議論では「能動に先立つ受動」の感覚が指摘される。つまり、他者の存在や行為に対する応答として「したい!」となる感覚――受動を踏まえた能動(=中動態的な主体性)が注目されているのである。

 新奇な議論のように思われるかもしれないが、例えば、実践論で有名な大村はまが長く提言してきた「教えながら教えられながら授業をつくる」という構えは「中動態的な主体性」に関する議論である。

 しかし、こうした提言とは裏腹に、国語科の授業は依然として「授業内容の固定化」「講義型授業への偏重」との課題が指摘される。中動態的な授業づくりが求められる背景である。

 私の授業では「ウルトラマン」やアニメの「魔法少女まどか☆マギカ」(まどマギ)といった映像作品を教材化することもあれば、大学入試改革などの社会事象を教材化することもある。また、社会的な課題(SNSによる誹謗中傷、子供の貧困、性差別など)を取り上げ、社会活動を行う単元もある。全て、年度当初には想定していない内容だ。

 「まどマギ」を扱ったきっかけは、生徒との雑談で、主人公の発想と「システム思考」の共通点を教えられたことだった。「システム思考」の視点から「まどマギ」を分析し、その視点を保ったまま社会批評に移行できると考え、「物語批評から社会批評へ」というテーマで単元化したのである。

 このように、「中動態的な授業づくり」は、生徒の文脈を引き受けることから始まるのである。

広 告
広 告