【社会をつくり出す武器としての言語活動(3)】創発を生み出す中動態的な授業づくり

【社会をつくり出す武器としての言語活動(3)】創発を生み出す中動態的な授業づくり
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 前回は「中動態的な授業づくり」を提案した。今回は「中動態的な授業づくり」によって可能となる「創発」について考えたい。

 まず「創発」(emergence)とは何か。さしあたりの定義として「参加者の相互作用によって、不確定な領域へと文脈が切り替わること」を「創発」と考えたい。

 定義中の「参加者の相互作用」とは、前回説明した「中動態」や「中動態的な主体性」を指す。では、後半の「不確定な領域へと文脈が切り替わる」とはどういうものだろうか。

 私の実践例で説明してみたい。昨年、高1の国語総合の授業で、外国人労働者の人権問題を扱った。外国人労働者の受け入れに肯定的な文献と否定的な文献を読み、ディベートを行う授業設計をしていた。

 授業で読み込んだ文献では、「ひょうたん島問題」という国際理解のシミュレーション教材のことが一行だけ触れられていた。そこに着目した生徒から「ひょうたん島問題をやってみたい」と声が上がった。

 その理由を聞くと、外国人労働者の受け入れには、受け入れ国側の「国際理解教育」の充実が前提となるが、実際に使用されている教材をこの目で確かめたいということであった。そこで、授業の中で新たに「ひょうたん島問題」を扱うこととした。

 扱う際の観点として「ベタとメタ」を設定した。「ベタ」とは「コンテンツ」に関する議論で、「メタ」はコンテンツを支える「プラットフォーム」に関する議論を指す。この観点を用いたのは、これまでの高1の授業で「ベタとメタ」で文学や評論、社会事象を分析してきたことが背景にあった。

 結果的に、「ひょうたん島問題」を「ベタ」に扱うことで、「国際理解教材が持つ意図」を「メタ」に分析するという趣旨の授業が創発された。これは、生徒の声を契機として、外国人労働者の人権に関する議論から、国際理解教育に関する議論へと文脈が切り替わったということである。

 創発は、人の「活動」を説明する心理学理論(活動理論)から説明することもできる。最新の活動理論のモデルに「第三世代活動理論」がある。これは、過去の活動理論が単一の活動主体を想定していたのに対し、複数の主体が出会い、相互作用を受ける中で新たな文脈が創発される様を記述するモデルである。

 特徴は、「能動的主体性」よりも「中動的主体性」に軸を置いて活動が記述されたこと、そして「新たな活動の対象の創出」や「境界の横断」といった言葉で「創発」(術語では「拡張」)が主題化されたことにある。

 こうした活動理論の視点は、授業を、生徒と教師が相互作用の中で新たな文脈を創発していく過程として捉え得ることを示唆している。そして、創発の中核には、中動態的な言語活動がある。

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