【OECD Education2030(7)】「OECDラーニング・コンパス」(後編)

【OECD Education2030(7)】「OECDラーニング・コンパス」(後編)
【協賛企画】
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「OECDラーニング・コンパス」では、エージェンシー(Agency)の重要性を提唱しています。エージェンシーとは、主体性や当事者意識を持って、社会をより良くするために自ら目標を設定し、その実現のために責任ある行動を取る力のことです。

このエージェンシーの主体とは、単なる行為の主体という意味ではなく、以下の3つの観点から捉えることができます。1つ目は、より良い社会を創造する主体という観点です。ある行為がどこに向かうための行為なのかは重要な視点です。2つ目は、個人の尊厳の主体という観点です。1つ目の行為は、いずれの場合も、個人の尊厳および他者の尊厳が守られていることが大前提です。そして3つ目は、意味付けや価値付けをする主体という観点です。例えば、自分の人生の目標を設定することは、AIで代替することができませんので、その意味や価値を考え、自ら目標を設定することは重要です。

さて、このラーニング・コンパスが、日本の2017~18年に改訂された学習指導要領に近似していることに気付かれた読者の方も多いと思います。今回の学習指導要領の改訂では、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力が、①知識・技能②思考力・判断力・表現力など③学びに向かう力・人間性など――の3つの柱で整理されました。これはラーニング・コンパスの、知識、スキル、態度、価値という大きな枠組みと近似しています。

なぜ、このような近似性が見られるのでしょうか。その理由は、日本が本プロジェクトに創設時から継続して、戦略的に深く関与したためです。その結果、二つのルートを経て、近似性が生まれました。一つ目は、日本の教育が大切にしている基本的な考え方や日本が目指している教育の方向性をOECDの会議で共有することにより、ラーニング・コンパスの作成に関する議論に影響を与えることができたというルートです。そして二つ目は、反対に、ラーニング・コンパスの共創過程の議論が、日本の学習指導要領の改訂に向けた議論の場である中央教育審議会で共有されることにより、改訂の方向性に反映されたというルートです。

このように、ラーニング・コンパスの共創に当たっては、日本の教育の背景にある思想も取り入れられています。欧米の考え方を単純に受け入れたものではないという点は、日本の教育外交にとって画期的なことです。また、日本の素晴らしい伝統や文化などの良い面は維持しつつ、世界から学ぶべき点は学び、日本の文脈に解釈し直して活用することも大切なことです。この二つの観点で、OECDのラーニング・コンパスと17~18年の日本の学習指導要領改訂は、好事例であったと考えられます。(第7回担当=鈴木文孝)

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