「このビールを見てあなたはどう感じますか?」
お酒好きの方であれば「そろそろ次を注文しなきゃ」、アルコールが駄目な方は「取りあえず一杯目で頼んだけど、まだ半分もある」。このように一つの物事であっても捉え方は多様です。
では、学校で育みたい「学力」という言葉についてはどうでしょうか。「入試を乗り越えるための認知能力だ!」「これからの時代に必要なのはペーパーテストでは測れない非認知能力でしょ!」「認知・非認知両方あってこその学力だ!」など、捉え方は立場や教育観によって異なるはずです。
前提として「対話」という言葉の意味を整理したいと思います。対話は議論や雑談とは異なります。議論は意思決定の手法であり結論を出すためのもの、雑談はお互いの関係性をより良くするためにするもの。そして、対話はそれぞれの思いや意見の違いを分かり合うために行うものです。つまり、それぞれ異なるストーリーで生きている個人をチームとして編み上げるために行うものが対話だと言えるかもしれません。この互いの異なるストーリーのことを「ナラティブ」と呼びます。
ロナルド・ハイフェッツは、組織の課題は2つに分けられると言いました。一つは技術的問題。すでに方法が分かっていて、調べれば答えが分かる技術的な問題のことを指します。もう一つは適応課題。組織の関係性や固定観念の固着化によって、人と人の関係性の中で生まれる課題です。多くの組織はこの適応課題で苦しんでいます。この適応課題を解きほぐし、解決するためには、相手のナラティブに立つことが肝要です。
ナラティブを踏まえた上で、気を付けるべきことは「目的」です。目的には、2つあります。一つは組織としての目的。あなたの所属する組織が生み出したい未来です。教育を通じてどんな未来を描くのか、もっと言えば何のために学校が存在しているのかです。あなたの学校は、組織として何を成したいのかを共有できているでしょうか。この目的の合意こそが、対話型ワークショップの本質です。
もう一つは、場の目的です。この対話型ワークショップで考えたいことを共有し、参加者の思考の方向性を整理する必要があります。場の目的が不明確な会議で参加者がうつむいて思考していない姿は、想像に難くないのではないでしょうか。
この2つの軸がぶれていては、対話の方向性や、ワークショップで考えたいことについての正しい方向付けに失敗し、それぞれが言いたいことを言うだけの場となってしまう危険性があります。
次回はいよいよ具体的なワークショップデザインについて考えましょう。