【部活動の新しいカタチ(1)】改革前夜

【部活動の新しいカタチ(1)】改革前夜
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 2019年、暮れを迎えようとしていた。

 当時、東京都渋谷区の教育長だった私は定例的に行われていた長谷部健区長とのミーティングの席で、部活動のことが話題となった際に「次は部活動改革ですね」と発言した。以前、私は中学校教師だったが、部活動にも当然関わっており、部活動に対する問題意識を持っていた。区長は私の方を向いてうなずき、短く「進めてほしい」と言った。

 この時、渋谷の「部活動改革」がスタートしたと言える。

 あらゆる種目の中から、まずサッカーで、20年4月から地域移行の準備が始められた。具体的には、区内の全中学生を対象に区立渋谷本町学園中学校を拠点にしたサッカークリニック(教室)を開催(月1回程度)することであった。

 これは学校部活動というフレームではなく、地域として教育委員会が開催するサッカークリニックに区内の全中学校からサッカーをしたい生徒が集まり活動することを端緒に、部活動の地域化の動きを進めていこうといった狙いであった。しかし、この取り組みはなかなか浸透せず、足踏み状態が続いた。

 20年9月、渋谷区の参与となった鈴木寛氏(東京大学教授)を交え、区長ミーティングが行われるようになった。そこで渋谷の「部活動改革」をさらに進めていくために、区や教育委員会とは別組織の一般社団法人を設立する案が浮上した。区や教育委員会においては、迅速かつ円滑にこの改革を進めることが容易ではない、との考えからであった。

 それからしばらくして、区長から「一般社団法人を設立して、その代表理事をやってもらいたい」との話が私にあった。この時私は、教育長としての3年任期の最終年度であり、重要施策であったタブレット端末の活用「学校デジタル改革」の基盤を固め、新しい授業「シブヤ科」の創設など、渋谷「未来の学校」づくりの成果を上げていた。「部活動改革」はやりがいのある仕事である。私は少し間を置いてから、「やりましょう!」と、区長に気持ちを伝えた。

 21年4月、私は区スポーツ部スポーツ振興課のスポーツ専門員となった。一般社団法人設立の準備や「部活動改革」の研究・調査が仕事である。一般社団法人の設立は簡単ではない。当初は私一人で取り組むようにと言われていたができるわけがない。しばらくしてオリンピック・パラリンピック担当部長であった安蔵邦彦氏が同じスポーツ専門員として加わり、区財政などの職務に携わった(事務のオーソリティー)青木一夫氏も区からの派遣職員として参画した。

 そうしてこの3人体制で、「渋谷ユナイテッド」の設立に向けて歩みを始めたのである。

【プロフィール】

豊岡弘敏(とよおか・ひろとし)1960年大分市生まれ。文教大学卒業後、東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了、東京都公立中学校保健体育科教諭、練馬区教育委員会指導主事・統括指導主事、葛飾区立桜道中学校校長、小金井市教育委員会指導室長、東京都教育委員会人事部主任管理主事、渋谷区立上原中学校統括校長、渋谷区教育委員会教育長、渋谷区スポーツ部スポーツ振興課スポーツ専門員・2021年一般社団法人渋谷ユナイテッド代表理事、東京女子体育大学・東京女子体育短期大学教授などを歴任。著書に『なぜシブヤの小学2年生はタブレットを使いこなせるのか?』(時事通信社)などがある。部活動経験はサッカー部、趣味はJAZZ。

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