【部活動の新しいカタチ(2)】渋谷の部活動改革の方向性

【部活動の新しいカタチ(2)】渋谷の部活動改革の方向性
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 2021年4月、「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」という名称でいよいよキックオフとなった。この時点では、まだ一般社団法人渋谷ユナイテッドは設立されていない。私は区スポーツ専門員として、当時のスポーツ部の山中昌彦部長、田中豊スポーツ振興課長、石谷望主任、上田理紗主任に支えていただき取り組んだ。

 東京都渋谷区の公立中学校は8校。団体競技はサッカー部が3校、バレーボール部が5校に設置されていた。軟式野球部は7校に設置されていたが、1校単独でチームが成立しないため近隣校との合同チームで大会に出場していた。バスケットボール部のみが8校全校に設置され、学校単独でチームも組めるといった状況であった。

 個人競技は硬式テニス・ソフトテニス・卓球・バドミントン・陸上競技・水泳・柔道の部があったが、8校全校に満遍なく設置されてはいない状況にあった。つまり、入学した生徒はすでにある部活動しか選ぶことができないでいた。また教員が顧問を担っていたが、教員が競技経験のない部活動では十分な技術指導ができない状況であった。

 ところで、子供の権利として「スポーツ権」というものがある。スポーツは文化としての権利であり、子供たちの日常におけるスポーツを保障する必要がある。入学した学校によって、部活動ができる・できないではこれに反するし、十分な指導を受けられないのでは子供がかわいそうである。

 さらに近年、新たなスポーツが注目されている。私が教育長時代に8校の全中学生に新たなスポーツとして何をしてみたいかなどを調査したところ、ダンス・ボウリング・eスポーツ・フェンシングなどの回答があり、新たな部活動のニーズがあることが実証されていた。これらのことから、渋谷の部活動改革の方向性としては、子供の「スポーツ権」を確保すること、生徒のニーズにできる限り応えられるような改革にすることなどが定まった。

 具体的には、生徒がやりたい部活動が自校になければ、その部がある学校と組んで行う(合同部活動。その延長に拠点校方式がある)、やりたい部活動がどこにもなければ、その部を一般社団法人でつくり、活動を保障する。

 現在、全国各地で進められている部活動の地域移行は、教員の働き方改革、教員の負担軽減策としての印象を強く感じる。もちろん、渋谷もその点は踏まえつつ、生徒が決してスポーツ・文化活動ができなくなるような状況を生まない改革を目指している。

 その後、21年10月15日には一般社団法人渋谷ユナイテッドを設立し、11月13日からは9部のモデル実施が始まった。そうして渋谷区は、まだ誰も歩んだことのない道を進み始めたのであった。

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