保護者に向かって、「共に子どもの未来を見据えてやっていきましょう」といったことを伝える機会はなかなかない。本来、保護者と教師は子どもを中心に据えて共生していく関係であるべきだが、現状では時に教師は利益の提供者であり、保護者はその享受者という構図になってしまっている。本来、双方信頼という同じ土俵に乗った共生相手であるべきところ、関係づくりがうまくいっていない。教師は身の安全を図るため、迎合していくしか手はないのである。
そんな迎合自体に嫌気がさしているのが教師自身である。これから教師を目指そうという若者たちにとっても、教職は魅力ある職業として映っていない。2020年の公立小学校の採用倍率が2.6倍という末期的低水準なのもよく理解できる。つまり、「そんな嫌な思いまでして、先生になんてなりたくない」のである。保護者との関係づくりに四苦八苦している指導教官を見て、教師を目指そうとする若者がいることの方がむしろ驚きである。
それでも、我々教師は現状を変えていかなければならない。人材、人員不足によって教育現場の維持が難しくなってきているからだ。今まで迎合・敵対してきた関係から、共生の道を探らなければならない。具体的には、「そういうことなら、一緒にやっていきましょう」と思ってもらえるような未来を提示していくことだ。
私が今いる職場では、「何とか保護者に信頼という同じ土俵に乗ってほしい」「苦手だと逃げていてばかりでは、先には進まない」という思いから、オンラインでセミナーを始めることにした。コロナ禍でオンライン授業の環境が整っていることから、そこに保護者が参加できるようにしたのである。初回のテーマは、「子どもの自己肯定感を高めるための方法」。全校を対象にした配信に対し、およそ2割の保護者が視聴してくれた。「どうして子どもの自己肯定感が低いのかよく理解できた」「子どもに自信を持たせるための方策について試してみようと思った」など、好意的な感想が幾つも届いた。
迎合・敵対しているときは、必ずと言ってよいほど両者が異なる土俵にいる。それを共生に導いていくためには、子どもを中心に置くことが不可欠なのである。「未来」というキーワードさえ押さえられれば、両者は良いパートナーとなろう。そのためにも、学校からの情報発信は不可欠である。どのようなテーマでもよいから、「子どもたちの未来のために…」というスタンスで発信を続ければ、おのずと同じ方向を向いてくるはずだ。