今回からは3回に分けて、プレゼンを組み立てる上で私が重視する3つの力、「考える力」「伝える力」「見せる力」を一つずつ、授業での様子も交えながらお伝えしていきます。まずは「考える力」。これはプレゼンの中身に直結する最も大事な「イイタイコト」を磨いていく力で、「広げて・深めて・選ぶ」プロセスが鍵となります。
例えば、授業で子どもたちに「都道府県名を10個答えて!」と問い掛けた後、「ではその中の一つの都道府県から連想できることを3つ答えて!」と尋ねます。すると自分の地元を中心に、子どもたちからポンポンと答えが出てきます。これは「広げる」プロセスです。そして次に、「行ったことはないけれど、行ってみたい都道府県を一つ、その理由と一緒に答えて!」と問い掛けます。これは「深める」プロセスです。
続けて子どもたちには「広げる」と「深める」の違いは何かを問います。「深める」過程では「なぜ、自分はこの都道府県なのか」という問いを立てなければならないため、自然と主語が「自分」に置き換わるのです。そして、「実は、広げるだけの作業ならAIの方が得意なんだよね」と伝えると、子どもたちの表情がサッと変わります。その様子を私は何度も目にしてきました。深めるプロセスは、AIにはまだできない、それは自分にしかない気持ちや着眼点、ストーリーが必要だからです。
深める作業のときはいつでも緩く、自由度を高く、一人一人の良さを最大限生かせるように接することを心掛けています。この「広げて深める」プロセスを繰り返すことは、探究の授業で言う「情報収集」と「課題設定」をぐるぐる回していくことにもつながり、「調べ学習」が「探究」へとグレードアップしていくのです。
そして、その内容は人に伝えることを想定して初めて研ぎ澄まされ、主張として昇華します。そのために、「考える力」の最後に「選ぶ」プロセスを入れています。調べたことを全部伝えると、聞き手には情報量が多過ぎて内容がぼやけてしまいます。本当に「イイタイコト」は何か。それを突き詰める過程では、せっかく調べたものを手放していくことに直面します。そして、聞き手の心に残るよう、「イイタイコト」をストーリーにして組み立てていくのです。
この「イイタイコト」をストーリーで伝えるストーリーテリングは今、ビジネスの世界でも業界を問わず重視されている技術の一つです。紙幅の関係で詳細は拙著に譲ります。