【授業理解を深める「予習」の指導 (1)】今後の教育で何を目指すのか

【授業理解を深める「予習」の指導 (1)】今後の教育で何を目指すのか
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 連載の初めに当たる今回は、これまで学力に関してどのような議論がなされてきたのかを押さえ、今後の教育の方向性について考えてみたいと思います。

 学力を巡る議論を振り返る上で、ゆとり教育に触れないわけにはいきません。それまでの教育が知識に偏り過ぎていたことを踏まえ、1990年代、思考力や学習意欲を重視したゆとり教育が展開されました。しかしその後、TIMSSやPISAなどの国際学力調査により、我が国の児童生徒の学力は基礎的な知識だけでなく、ゆとり教育で重視してきたはずの思考力や学習意欲も低下しており、学力格差も拡大していることが明らかになりました。こうした結果を基に2000年代に抜本的な見直しが行われ、基礎的な知識の習得、思考力の育成、そして学習習慣の確立が目指されることになりました。それが現在の学力の3要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度)へとつながってきています。

 こうした教育改革により、教育現場では再び宿題を積極的に出すようになり、ゆとり教育の中で減少していた家庭での学習量は増加しました。また、基礎的な知識が問われるTIMSSや全国学力・学習状況調査(全国学テ)のA問題の結果も好転しています。しかし、PISAや全国学テのB問題のように、応用力や思考力が求められるテストでは得点が伸び悩んでおり、ゆとり教育後の方針転換で増加した家庭学習が、基礎的な知識の定着には寄与しているものの、思考力の育成には結び付いていない状況と言えます。

 では、今後の学校教育では何を目指していけばよいのでしょうか。思考力が伸び悩んでいるからといって、基礎的な知識や技能を捨てて児童生徒にたくさん考えさせるようにしては、ゆとり教育へと逆戻りするだけです。認知心理学では、我々は知識を使いながら思考していることが知られていますので、知識を軽視した教育で思考力が育たないのは当然と言えます。ならば、考えるべきは身に付けさせる知識の質であり、「思考に使える知識」を目指すことが重要となります。

 また、生涯にわたって効果的に学び続けていく上では、学習習慣や学習方法を確立する必要がありますので、家庭学習を通じて「学ぶための力」を高めながら、知識や思考力の育成を目指すアプローチが間違っているわけではありません。では、具体的にどのような指導を行っていけばよいのでしょうか。次回は、「思考に使える知識」とはどういうものかに触れながら、本稿が「予習」に注目する理由について考えていきたいと思います。

【プロフィール】

篠ヶ谷圭太(しのがや・けいた)日本大学経済学部教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は教授・学習心理学。認知心理学に基づいて、教育現場と協働しながら効果的な学習法や指導法を研究している。著書に『予習の科学「深い理解」につなげる家庭学習』(図書文化)、『新・動機づけ研究の最前線』(北大路書房)など多数。

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