【 子どものSOSを見抜くには(1)】「あなたのいばしょ」設立に至る原体験

【 子どものSOSを見抜くには(1)】「あなたのいばしょ」設立に至る原体験
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 「あなたのいばしょ」は24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口だ。24時間対応している全国規模のチャット・SNS相談窓口は、日本でも数少ない。設立したのは新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年3月。当時、筆者は大学に在学しており、友人たちに声を掛けてこの窓口を立ち上げた。「あなたのいばしょ」は「望まない孤独をなくす」ために「信頼できる人に確実にアクセスできる仕組みを創る」ことを目指している。この理念は筆者の原体験に基づく。

 筆者は幼い頃に母親が蒸発し、父と暮らしていたが、暴力や暴言などに悩み、学校に行けなくなった経験がある。小学生だった筆者は常に、命を絶つことを考えていた。その頃、蒸発した母親と母親の再婚相手が現れ、上京することができたが、母と再婚相手には別の生活拠点があり、筆者は東京でも一人で孤独に苦しむ日々が続いた。

 高校時代は学校の制度を使って留学することができ、人生をやり直すキッカケをつかめたように思えたが、帰国すると母は離婚し、生活にも困窮していた。自分を捨てた母を許すことはできなかったが、持病もあって働けない母親を支えつつ、自らも生活するためにアルバイトを掛け持ちしていた。当然、学校に行くこともできず、心身ともに疲れ果て、再び「死にたい」と思うようになった。

 ひとまず学校をやめようと思い、高校3年間担任だった先生に深夜、メールを送った。すると先生は翌朝、私の家に駆け付けてくれた。以来、先生は5限目から登校しても「よく来たな」と声を掛けてくれ、「夕食を作りに行ってあげるぞ」と心配をしてくれた。筆者にとって生まれて初めて出会った「信頼できる人」だった。学校をやめず、生活と両立する道を探ることができたが、母親の問題、経済的な問題は解決しなかった。しかし、何かあれば先生に頼れるという「安心感」とそこから生まれる「心の余裕」は、苦しみを乗り越える原動力となった。

 同時に、もし先生がいなければ自分は命を絶っていたということに恐怖心を感じた。頼れる人と出会えるか否かは、奇跡や運や偶然による。悩みを抱える人が確実に頼れる人にアクセスできる仕組みが必要だと感じるようになった。仕組みづくりの方法を学ぶために、夢にも思わなかった大学進学を目指すようになり、アルバイトと学校生活、勉強を両立しようともがく日々が続いた。当然、現役では合格しなかったが、大学進学を果たすことができた。

 学費を稼ぐためにアルバイトする日々は続いていたが、大学生活も後半に入り、少し余裕が出てきた2020年3月、筆者のかつての先生のような、頼れる人に確実にアクセスできる仕組みとして、「あなたのいばしょ」を設立することになった。

【プロフィール】

大空幸星(おおぞら・こうき)1998年、愛媛県松山市出身。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的にNPOあなたのいばしょを設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動している。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員、内閣官房孤独・孤立対策担当室HP企画委員会委員、内閣官房こどもの居場所づくりに関する検討委員会委員など。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2021年 新語・流行語大賞トップテン入り。堀潤モーニングFLAG(TOKYO MX)月曜レギュラー、Mr.サンデー(フジテレビ)月1レギュラー、めざまし8(フジテレビ)隔週木曜レギュラー、AbemaPrimeなど、多数メディアに出演。著書に『望まない孤独』(扶桑社新書)、『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由』(河出書房新社)。

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