特定非営利活動法人あなたのいばしょ理事長
本連載ではこれまで、チャット相談の仕組みやSOSを出さなくても頼れる人につながる仕組みの重要性などをお伝えしてきた。最後となる今回は、これまでのことを踏まえて、「学校における孤独・孤立」を捉え直すことを提案したい。
前回、SOSを出さなくても支援につながる仕組みの重要性をお伝えした。今回は仕組み論ではなく、一人一人ができることにフォーカスを当てたい。
本連載の第6回で、子どものSOSを把握することは非常に難しいという話をした。「頼ることは恥ずかしい」「相談することは負け」といった内向きのベクトルのスティグマ(負の烙印)が存在しているためだ。実際に政府が今年4月に公表した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では孤独感が「しばしばある・常にある」が支援を受けていない人に理由を問うたところ、最も多かったのが「支援が必要ではないため」という回答だった。
今回紹介したいのは、子どもたちから「死にたい」といった相談を受けたときに役立つかもしれない思考法。それは「マイナスからゼロへ」という考え方だ。
この連載のタイトルは「子どものSOSを見抜くには-学校での孤独・孤立を防ぐ-」となっている。SOSとは、かつて船舶を中心に使われていた、モールス符号による遭難信号だ。船が危険な状態に陥っていることを外部に知らせるために使われていた。SOSという言葉は現代社会においてはごく普通に使われており、語源通りに受け取る人は必ずしも多くないだろう。
近頃、メディア・行政・支援団体などが「子どもの『孤立』を防ぐ」という言葉を頻繁に使っているのを目にする。一方、筆者が理事長を務めるNPO法人あなたのいばしょでは「望まない『孤独』を防ぐ」という言葉を使う。「孤立」と「孤独」は相互互換的に使われることが多いが、これらは全く別物だ。
子どもの自殺を取り巻く現状は、一言で言ってしまえば異様だ。2020年の全年代の年間自殺者数は11年ぶりに増加に転じたが、それまでは03年の3万4427人をピークに減少し続けていた。実際、統計開始以来過去最小となった19年の自殺者数は2万169人と、16年前と比べて1万5000人近く減っている。
「あなたのいばしょ」には自殺、DV、虐待など、さまざまな困難を抱えた人から相談が寄せられる。2020年3月に窓口を開設して以来、相談件数は約48万件を数える。膨大な数の相談が寄せられる中で、私たちは常に「トリアージ」(優先順位の選別)をしなければいけない。
前回は「あなたのいばしょ」を設立するキッカケを紹介したが、今回は「あなたのいばしょ」の仕組みを紹介したい。あなたのいばしょは24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口だが、相談窓口が長年抱える課題を解決するために、さまざまなアプローチを試みている。
「あなたのいばしょ」は24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口だ。24時間対応している全国規模のチャット・SNS相談窓口は、日本でも数少ない。設立したのは新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年3月。当時、筆者は大学に在学しており、友人たちに声を掛けてこの窓口を立ち上げた。
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