今回は、実際に予習を行わせた際の効果を検討した篠ヶ谷(2008)の研究を紹介します。この研究では、中学生を対象とした5日間の実験授業を用いて、予習によって本当に授業理解が深まるのか、予習は誰にでも効果があるのかを検討しました。
単元は歴史(第一次世界大戦)で、中学2年生86人を予習群29人、質問生成予習群29人、復習群28人の3群に分けた上で授業を行いました。予習群は授業を受ける前に、5分間教科書を読んで予習するクラス、復習群は予習群とは逆に授業を受けた後に5分間教科書を読むクラス、そして質問予習群は、教科書を読んで予習する際、授業に向けて歴史の「なぜ」を問う質問を作るクラスです。
授業は歴史の「深い理解」を目指し、教科書の記述に沿って、その背景や出来事の因果関係を説明するものでした。例えば、第一次大戦の背景や勃発までの経過を扱う授業回では、教科書には「ドイツがフランスやロシアと対立した」といった内容が記述されていますが、「なぜドイツはロシアやフランスと対立するようになったのか」は記述されていません。授業では、そうした背景因果を説明しました。
そして、最終日の5日目に、2種類のテストを使って計4回行われた授業の理解度を測定しました。一つは教科書にある個々の知識を問う一問一答テスト、もう一つは授業の中でのみ扱われた歴史の背景因果(なぜ)を問う記述テストです。テストの得点について分析を行った結果、予習をした2つのクラスは、記述テストにおいて復習群よりも高い得点を示しました。
この結果は、予習で「誰が何をしたか」「いつ何が起こったか」などの知識を得ることで、授業ではその「なぜ」まで理解できるようになることを示唆していると言えます。しかも、こうした効果の個人差について分析を行ったところ、予習の効果は生徒の意味理解志向(歴史の勉強で理解することを重視する姿勢)の高さによって異なることが示されました。具体的には、意味理解志向の高い人ほど予習の効果が大きく、意味理解志向の低い人ほど予習をしても期待される効果が得られていなかったのです。
予習を日々の学習指導に取り入れる場合、最も簡単な指示は「教科書の、次の授業で扱う範囲を読んできなさい」といったものになると思われます。しかし、意味理解志向のような、学習者の勉強に対する考え方次第で予習の効果に違いが生じることには注意する必要があります。