子どもの自殺を取り巻く現状は、一言で言ってしまえば異様だ。2020年の全年代の年間自殺者数は11年ぶりに増加に転じたが、それまでは03年の3万4427人をピークに減少し続けていた。実際、統計開始以来過去最小となった19年の自殺者数は2万169人と、16年前と比べて1万5000人近く減っている。
しかしこの間、子どもの自殺者数だけは減少しなかった。全体の自殺者数がピークとなった03年の小中高生の自殺者数は318人だが、19年は399人と増加している。そして20年は499人と、1年間で100人も増加した。当然、子どもの人口が減少し続けている中での数字であり、まさに異常事態と言える。
ではなぜ、子どもの自殺だけが減らないのか。それは「子ども目線」に立った政策や支援が展開されていないからにほかならない。例えば、子どもの自殺を防ぐための相談窓口はいまだに電話相談が中心だが、現代の子どもたちは電話を使用することがほとんどない。総務省情報通信政策研究所が20年9月に発表した「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、13~19歳の1日の平均利用時間は携帯電話が3・3分、固定電話が0・4分であるのに対し、SNSは64・1分だった。友人との会話なども電話ではなくSNSを使用する現代の子どもたちが、深刻な悩みを電話で、しかも見知らぬ相手に打ち明けられるだろうか。
こうした現状を踏まえて、国としてもSNS・チャット相談を支援する動きはあるが、いまだに「子ども目線」に立っているとは言い難いのが現状だ。子どもたちの自殺防止に向けた文科省のホームページは、22年時点では電話相談窓口が大きく表示され、SNS・チャット相談は下部に小さく表示されているにすぎない。さらに児童生徒向けの自殺予防啓発を目的として、21年春に文科省が公開した動画の最後には電話相談窓口が大きく表示されている。この部分にSNS・チャット相談窓口につながるQRコードを表示するよう変えていく必要がある。もちろん、「電話相談窓口をなくせ」というわけでは決してない。これまで電話相談を中心に案内してきたものを、現代の子どもたちに合ったSNS・チャット相談窓口の案内に変えていく必要があるということだ。
電話相談窓口とSNS・チャット相談窓口にはそれぞれの役割があり、自殺を防ぐという共通の目標の下で互いに役割分担をしていけばいい。今こそが、電話相談中心主義から脱却するべきタイミングだ。