【 子どものSOSを見抜くには(8)】SOSを出さなくても支援につながる仕組みを

【 子どものSOSを見抜くには(8)】SOSを出さなくても支援につながる仕組みを
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 本連載の第6回で、子どものSOSを把握することは非常に難しいという話をした。「頼ることは恥ずかしい」「相談することは負け」といった内向きのベクトルのスティグマ(負の烙印)が存在しているためだ。実際に政府が今年4月に公表した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では孤独感が「しばしばある・常にある」が支援を受けていない人に理由を問うたところ、最も多かったのが「支援が必要ではないため」という回答だった。

 こうした中、「SOSの出し方教育」といった頼る手法を教える前に、まずは個人が自らの状態を客観的に把握できるツールの開発などを推進するべきだというのが筆者の意見だ。ツール開発といっても、自己分析シートを子どもに配布するといった旧来の方法ではない。今の子どもたちの生活習慣や文化・慣習を踏まえると、デジタル以外の選択肢はない。日本はGIGAスクール構想によって、ほぼ全ての子どもたちがデジタル端末にアクセスできる環境が整っている、世界でもまれな国だ。そのアドバンテージは残念ながらさほど活用されていない。

 1人1台端末に、個人の精神状態などを客観的質問によって判断できるアプリを導入することを筆者は訴えてきた。近年、子どもたちに気持ちを天気で表してもらうことによって、いじめなどの早期発見を図る取り組みがあるが、そうした取り組みをさらに拡大していく必要があるのだ。

 「支援が必要ではない」と感じている人が多い中でまず重要なことは、「自分自身が誰かにつながる必要がある存在」だと認識してもらうことだ。筆者は委員として、「あなたはひとりじゃない」という質問に答えるだけでその人に合わせた相談窓口や支援制度を紹介する内閣官房のチャットボットの開発に携わっている。この「あなたはひとりじゃない」の仕組みはまさに、その人自身がつながる必要性があることを認識してもらうことによって機能している。1人1台端末で、客観的孤独感尺度などを用いて子どもたちに質問に答えてもらい、「あなたにお勧めの窓口はこちら」といった形で、支援団体や相談窓口を紹介する仕組みが必要だろう。スクールカウンセラーの予約も選択肢にあるとよい。

 もちろん、スティグマが社会にまん延する中で、「あなたは支援が必要です」と安易に伝えることは、自らを劣った存在だと見なし、さらに支援が届きにくくなる危険性もある。そのため、「頼ることは恥ずかしくない」「相談することは負けではない」といったスティグマの軽減を図るような教育も怠ってはならない。

 繰り返しになるが、SOSの出し方など手法論の前に、社会の文化を育て、SOSを出さなくても頼れる人にアクセスできる仕組みの整備を急がなければならない。

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