新型コロナウイルスの感染拡大から2年余りの月日がたちましたが、今なおその影響は続いています。2022年は、「ロシアによるウクライナの軍事侵攻」「安倍晋三元首相の銃撃事件」「芸能人など著名な人の自殺」など、衝撃的な出来事が数多くありました。紛争や事件だけではなく、事故や自然災害など、個人的なレベルから世界規模のレベルまで、衝撃的な出来事は世界中を見回すと決してまれなことではなく、私たちの身の回りに日常的に起こり得ることです。
今日では、さまざまなメディアやSNSを通じて、世の中に起こっている出来事を即座に知ることができるようになりました。世界中で起こっていることを、正しく知ることは、一人の人として大切なことです。その一方で、私たち大人も繰り返し流れてくる衝撃的な映像や報道によって、気持ちが動揺したり、強い不安や恐怖を感じて気分が落ち込んだり、知らず知らずのうちに影響を受けていることがあったかもしれません。
衝撃的な出来事は、たとえそれが自分や自分の身近に起こったことではなくとも、人々、特に子どもたちにストレス反応を生じさせ、心身の健康に悪影響を及ぼすことが知られています。例えば、海外で行われた調査では、テロや自然災害の報道にさらされた結果、起こる反応として、怒り、恐れ、心配、悲しみ、集中力の低下や学習能力の低下、そして養育者への愛着の問題や睡眠の問題などがよく報告されています。このようなストレスフルな出来事は、「トラウマ(=心の傷)」(SAMHSA, 2014)として、人々の生活に長期的な悪影響を及ぼす可能性があります。
新型コロナウイルスの感染拡大の波を経て、子どもたち一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せ(ウェルビーイング)の実現を目指し、小中学校の段階から1人1台端末の本格的運用やデータ駆動型の教育をさらに促進する動きが出てきています。(「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について(第十二次提言)」(2021年6月3日 教育再生実行会議)
本連載では、こうして子どもの学習環境を整える中で、私たちがどのように子どもたちの心を守り、成長をサポートしていくことができるのかについて紹介していきたいと思います。
【プロフィール】
池田美樹(いけだ・みき)東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科臨床心理係長を経て、桜美林大学准教授(臨床心理学)。公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士。赤十字こころのケア、DPAT(災害派遣精神医療チーム)事務局支援として東日本大震災、熊本地震災害など、多数の災害支援活動に従事。DPATインストラクター、DPAT先遣隊員、セーブ・ザ・チルドレンジャパン「子どものための心理的応急処置」指導者。日本公認心理師協会災害支援委員会委員長、日本臨床心理士会災害支援PT副代表。著書(共著)に『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』(南山堂)、『こころに寄り添う災害支援』(金剛出版)など。